第二次性徴前の相手には自重していきたいです
私を見る少年たちの顔は、一言で言い表しがたい表情をしている。
誰だこいつ、という怪しんでいるもの。
どういうヤツなのかという不審の表れているもの。
何かがはっきりとしない、という不思議さを感じているもの。
それらを気にせず、ヨルク隊長がみんなに声をかける。
「よし、そろっているな」
その言葉に、それなりに集まっていた少年たちが、ヨルク隊長の近くに寄って来る。
「隊長、そいつは?」
ヨルク隊長は私を紹介しようとしていたようだが、彼が口を開くよりも早く、一人の、この中では年長であろう少年が尋ねた。
「今、言おうと思っていたところだ。……彼の名前はルカ。クラウス様の給仕だ。今日は皆と一緒に訓練に参加する」
手で示しながらヨルク隊長に紹介されたので頭を下げる。
そこにひそひそとした声が聞こえた。
『男か』
『給仕なら城ん中いたらいいだろ』
『でもクラウス様の給仕ってことは、いいとこのヤツなんじゃない?』
聞こえないようにしているつもりのようだが、丸聞こえだ。
なるほど、先ほどの何かがはっきりしないという視線は、性別についてのことだったようだ。
あまりいい印象を持たれていないようなのが、ちょっと面白い。
今までこの容姿にほぼみんなイチコロだったからね。なんてね。
これは年齢によるものなのだろうかと疑問が浮かぶ。
つまり、第二次性徴以前か以降か、という。
顔を上げたところで、一瞬さあどうしようかと考えた。
考えて、にこりと微笑んでみる。
「ルカです。よろしくお願いします」
下手に何か言って質問されても答えられないことがどうせ多いので、挨拶の言葉は短めに。
そうすると、十代半ばといったあたりの三人は明らかに顔を赤くして慌てた様子を見せた。
十代前半くらいだろう四人はそわそわと落ち着きがない様子だ。
そして、十才かそれより少し下か、といった辺りの三人は笑顔を返して、よろしくと言い出した。
怪しんで不審に思っていた態度とは、どれも打って変わったものだ。
ちなみにヨルク隊長は明後日の方向を向いて、何かぶつぶつと呟いていた。
「1……、3……、5……、7……」
なんて聞こえているのだけれど、素数、だろうか。
ともかく、この体の笑顔は、年齢を問わず効果的なようだ。
まあ、あんまりばらまかないでおこうと思う結果でもある。
ヨルク隊長は少しして、気を取り直したのか咳ばらいをすると言った。
「そういうわけだ。よろしく頼んだぞ」
そしてそそくさと立ち去って行く。
残された私と、十人の少年たちはその流れに多少戸惑ったものの、先ほどとは別の、一番年長だろう少年が口を開いて、その後の流れを作った。
「ええっと、よろしくな? ルカ。俺はマティアス」
つまり、自己紹介の流れだ。
おそらくは年齢順なのだろうという順番で、それぞれが名前を告げていく。
マティアスの次が、ペーア。続いて、ザロモン、ソレン、エッケハルト、ダニロ、ライマル、オスヴァルト、ミケ、カイ、だそうだ。
それぞれ、年齢相応の体型かやや細身。むしろ痩せ気味。髪の色は赤茶から茶色、黒、といったところだが、名前と顔が一致するにはもう少し時間がいりそうだ。
そんな内心は言葉に出さないまま、もう一度よろしくと言っておく。
「とりあえず、いつも通りにトレーニングをしていくことになるけど、ルカは今までそれらしいことをしたことはあるのか? 体を動かすのは得意?」
マティアスが、引き続きこの場を取り仕切っていくらしい。
尋ねられたことに、私は首を傾げた。
この体はある程度、『動ける』ものだと先生から聞いてはいるが、実際にはまだ走ったり跳んだりなんてしたことはないし、どのくらい動けるのかについては全く試していない。
魔術面ではなかなかの持続性が発揮できる自信がすでにあるのだけれど、それがそのまま体力的な持続性に繋がるわけではない。
「どうかな。あんまりよく分からないんだけど」
「だったら、ついて来れないってなったら、休んでたらいいよ。ひとまず、最初は走るからね」
というわけで、私は少年たちと一緒に訓練場を囲う壁に沿って、走ることになった。
自分にイメージ出来るトレーニングの範囲のことを行うようだ。
軽いペースで走り出しながら、何だか本当に自分が少年たちの一員になるかのような感覚になった。




