見習い少年兵という響きもいいものだと思います
「この塔を下りると、訓練場になっているんだ」
「はあ」
橋を渡ったところで、塔の中に入り、階段を下りる。
クラウス様の説明に対して、私の返答がやや投げやり気味に聞こえてしまうのは、先ほどのやり取りを引きずっているからだ。
若い方が好みなわけでもないけれど、改めて私の好みがどうこうと尋ねられるのも困る。そもそも、先生相手に調子に乗っていたというか、美少年の体だと知ってやや訳が分からなくなっていたというか、そんな時の行動をクラウス様に持ち出されたのも困る。
いやほんと。
美少年の行動が意のままであるなら、成人男性相手の色仕掛けの一つや二つ見たくなるのが人情というものではないだろうか。
なんてね。
そんなことでも考えていないと、クラウス様に向けられた言動の意味を考えてしまって、しかも答えにたどり着くはずもなくて、堂々巡りにおちいってしまう。
先生相手の自分の体を触らせていたことを正当化したいかというと、正直微妙なところなのだけれど、じゃああれは何でしていたのかと問われると、調子に乗っていたことくらいしか理由にならないので、気付いたら自分の体が美少年だったせいにしておこう、そうしよう、と堂々巡りも言い訳も放り投げてしまいたい。。
いいよね、成人男性相手に色仕掛けと駆け引きで上手く立ち回る少年。
とだけ考えていたいところだ。
それが自分でなければなのだけれど。
やーれやれ、と溜息を吐きたくなりながら、クラウス様の斜め後ろを歩いている今、それは流石に止めておく。
この流れで大きな溜息なんて、感じが悪いにもほどがあるだろう。
すぐに『別に先生が好みなタイプだったわけではない』と言っておいた方がよかったのかとも思うが、何を言っても言い訳じみてしまうのは明らかだし、では今からでも何か釈明するべきかというと、それもわざとらしい。
本当に、溜息を吐きたい。
でも感じが悪いのは自分で分かるので、止めるしかない。
まったくも、やれやれ、だ。
自分で蒔いた種なのが、とてもしんどい。
そんな感じに階段を下りて行っていると視線を感じた。
もちろん、クラウス様の視線だ。
ちらちらと、私を振り返っているようだ。
いつもより視線が近い感じがしたのは、クラウス様が先に階段を下りて行っているから、身長差が縮まっているのだ。
それでも、元の差が大きいのだから、クラウス様の視線の方が高い位置にある。
何だろうかと見上げると、クラウス様は少しの間私に目を止めて、また前を見た。
その時、ほんの少し笑っているように見えたのは、気のせいかもしれない。
不機嫌なわけではないようだけれど、それが駆け引き力というものなのだろうか。
塔を下り終わると、先に聞いていた通り、外がすぐに訓練場になっていた。
これがかなり広い平地なのだけれど、それでもまだ、ちょっとした高台くらいの高さがある場所のようだ。
ふり返ると、一層高い場所に城があり、それもまた結構な大きさだと分かる。
その城で兵士として務める人たちの訓練場ということは、これもまたそれなりの人数が集まっているわけで、年配の人から働き盛り、新米、といった顔ぶれは男性ばかりだ。それぞれの動きを止めて、こちらをちらちらと気にしているのが伝わってきた。
何だか、ひそひそとしたやり取りも聞こえる気がする。
「クラウス様、おはようございます」
やや年配の、ざっと見た中ではそれなりに上の立場でありそうな男性が駆け寄ってきて、頭を下げながらちらりと私を見る。
つまりひとひそとしたやり取りもまた、私への興味だか何だかなのだろう。
「ああ、ヨルク。ちょうどよかった。この子を、見習いたちの訓練に混ぜてもらえるかな」
「それは、構いませんが……」
ヨルクと呼ばれた男性は、明らかに戸惑った態度で、『誰なんだ』と問いたそうにしている。
まあ、当然な反応だろうけれど、クラウス様はあっさりと何も問題はないというように続ける。
「数日前から給仕をしているルカだ。ルカ、ヨルクは隊長を務める一人だから、訓練場のことで分からないことは聞いたらいい」
ヨルクはその言葉に、ほんの一瞬、何かに気付いたような顔をして、それを隠してみせた。
一体、何なのやら。
「私はこちらにいるが、戻る時には声をかけるから、そうしたら戻って来なさい」
私がクラウス様の言葉にうなずくと、それでは、とヨルクが案内を始める。
ついて歩きながら振り返ると、クラウス様は剣を手にしたところだった。
他の兵士たちも、素振りをしたり、剣で打ち合ったりしている。また別の場所では、弓を扱っている姿も見えた。
なるほど、日々の鍛練というのはこういうものなのかなと、きょろきょろと見回してみる。
気になるのは、自分がどういったことをすることになるのか、ということだ。
「ヨルク、さんと呼ぶのがいいんでしょうか? それとも、ヨルク隊長?」
声をかけてみると、ヨルクさんは少し戸惑った態度で私を見る。
「まあ、隊長とつけてくれた方が、他の者の手前いいかな」
「わかりました。では、ヨルク隊長、わた……いえ、ぼくが混ぜてもらうことになる、見習いの人たちというのは、どういう訓練をしているんでしょうか?」
「ああ、それは別に大したことじゃない。走ったり、基礎的なトレーニングばかりだ。大体年齢も、……君と近いだろうから、気楽に混ざるといい」
なるほど、とうなずいて案内されたのは、訓練場の端の方だった。
確かに十才から十五才くらいだろうという少年たちが、十人ばかり集まっている。
ヨルク隊長と私が近づいたことに気付いた彼らを見て、私は『あ、クラウス様の好みで集めてあるんじゃない?』なんて思った。




