傾城の美少年にならない誓いを密かに立てます
さて、エレオノーラさんの用意してくれた着替えは、地味さと動きやすさを追求したようなものだった。
薄いグレーの長袖と濃いグレーの長ズボンは動きやい伸びの良い布地だ。私の感覚からすると、Tシャツとトレーニングパンツという感じなのだけれど、そういう呼び名があるかどうかはよく分からない。
靴も布で出来た動きやすい物を用意してくれている。
どれも、いつもエレオノーラさんが用意してくれる物からすれば、地味、シンプル、味気ない、のだけれど。
「うーん……」
着替え終えた私を見て、エレオノーラさんは笑顔のまま腕を組んで、分かりやすく唸っている。
「どうかな?」
扉をノックする音が聞こえ、エレオノーラさんが応えると、クラウス様が入って来た。
クラウス様も、動きやすそうな姿になっている。けれどよく見ると、先ほど見た姿から上着を脱いだだけのようでもある。
元々朝のスケジュールは決まっているので、着替えにかかる時間を省いているのかもしれない。
関係ないけれど、シンプルな白いシャツ姿というクラウス様は、やはりイケおじと呼んでいいと思う。
さて、そんなクラウス様も私の姿を目にすると、唸りはしないものの、困っていることが分かる笑顔を浮かべた。
まあ、二人のこの反応、姿見に映る姿を見れば、理解出来ないこともない。
「困ったな、こんな姿のルカを城の外で見かけたら、絶対連れ帰っているぞ」
「下働きや見習いで城に入っていたら、私も間違いなくクラウス様に相談させていただきますね」
これらの言葉が、状況をよく表している。
確かに恰好自体は地味なのだ。
地味なのだけれど、その分、目立ってしまっている。
違和感があるというよりは、目立ってしまっているのだ。
何でもない場所に、いきなりポンと置かれた大粒の宝石のような。
砂漠にいきなり真っ赤な薔薇があるような。
宝石であればしかるべき華やかな場所に、薔薇であればより薔薇に相応しい緑あふれ手入れされた庭園に。
そうしたくなってしまう。そうしたくなってしまう格好の私が、鏡に映っている。
「王城騎士見習いの正装が最低ラインだな……」
クラウス様の呟きにただうなずくエレオノーラさん。
最低ラインが何のことかとは、流石に私も聞いたりしない。
「ですが、兵士たちの訓練場となると、王城レベルのものは目立ってしまいますしね」
何しても目立つのかというツッコミも心の中だけに留めておく。
「うむ、まあ、慣れてもらおう。これはこれで、ルカは着飾らせるのも楽しいと再認識させてくれるしな」
「仰る通りです」
エレオノーラさんの返事は、表面上は抑えられたものだったけれど、同志を得たかのような弾みっぷりが隠されていることが伝わってくる。
理解しあう主と使用人。
よいことだろうけれど、これはまた派手な服が用意されてしまうのではないだろうかと、私はほんの少しおののいた。
傾城の何とやらには、なりたくないものだ。
そんなこんなで、ちょっとした思い付きを口にしただけなのに、随分と手間取ってしまった感じだ。
とはいえ、エレオノーラさんの手際の良さで、時間そのものはあまり経っていない。
私とクラウス様は、ようやく、兵士たちの訓練が行われている場所へと向かうことになった。
歩いていくのは建物と建物を繋いでいる壁の上。
壁といっても、それ自体も建物だと分かるので、屋上といった方がいいのだろうか。
各建物の各階が繋がっていて、別の建物に行くのにわざわざ外に出る必要がない造りになっているようだ。
「天気がよくてよかったな。ルカは、まだこの城の全体を知っているわけではないだろう? まだ一人で歩かせてあげるわけにはいかないが、どんな場所かは見ておくといい」
もしやそのために、高い場所を行くことにしたのだろうかとクラウス様を見ると、その笑顔がしてやったりという風に見えた。
私の気のせいかもしれないけれど。
高い場所から見渡すと、確かに城の全体がよく分かった。
兵士たちの居場所も分かったし、街の中での城の位置というのも分かった。
高台にある大きな城と、栄えていそうな広い街、それからその遠くに見える海。
クラウス様がここら辺りの領主であるということについては、深く考えないことにした。
傾城の何とやらが敵に回す規模としては、ちょっと大きすぎるというものだ




