兵士というとむくつけき男の人たちがたくさんいるんでしょうか
「ところで、今朝はクラウス様についていっては、いけないですか?」
朝食までの時間を、私は魔術の練習やそのために魔術書を読むことが多いのだけど、今朝はそんなことを言ってみた。
おや、とクラウス様がカップとソーサーを持ったまま首を傾げる。
嫌そうというわけではなく、単純に不思議がっているようだ。というのも、クラウス様の部屋の隣というか、クラウス様の居住区画の一室というか、ともかくそこに部屋をもらった最初の朝に、一緒に行ってみるかと誘われて断ったような態度を取っていたからだろう。。
ような、というと微妙なのだけれど、はっきり行かないといったわけではないのだ。
どう誘われたかというと、朝食前に城の兵士たちの訓練に参加して体を動かすのだがどんなものか見てみないか、ということだった。
そう言われると、自分では剣なんか持てないだろうし、ツワモノに混じるのは無理だろうと思うものではなかろうか。
私は思った。そう思った。
同じ体格の、外見年齢と同じ年齢群の少年よりは、比較的運動能力は高めと先生から聞いた気がするが、だからといっていきなり兵士の訓練に参加するのは無理な気がする。
かといって、見ているだけというのも、興味が持てる気がしない。
大体、この体をクラウス様に仕えている立場とはいえ、いきなり多くの男性の目に触れさせるのは、ちょっとどうなのか。
などなど、色々考えた結果、言葉に詰まって結果として断ったような流れになっていたのだ。
けれどクラウス様は、あっさりとうなずいて返した。
「構わないが……、それは見学希望と、混ざりたいのとどっちかな」
まあ、後の場合を警戒するのは、分からないことはない。
「出来れば、少し体を動かしたいと思って」
これは本当。
どうもこの体、多少贅沢と怠惰と貪っても、体型にも容姿にも体力にもあまり影響がないのだけれど、それはそれでラッキーだと思うとしても、この体に生まれ変わってというもの、あまりにも動いていない。
別に元が運動好きだったというわけではないけれど、家事と仕事と両親の介護にちょこまかと動いていた記憶があるせいか、ゆったりとすごしてばかりいると、動きたくなってくるのだ。
「なるほど。確かに運動不足はよくないが、そうだな」
クラウス様は少し考えると、部屋の壁際に控えていたエレオノーラさんを呼んで、動きやすい服が用意してあるか尋ねた。
それとは関係ないのだけれど、細かな模様の描かれた壁に、シンプルなブラウスとエプロン姿の熟年メイド長というのは、絵になるなんてことを私はぼんやりと考える。
「どんなものでも用意してございますよ。今日の空気は爽やかですが、多少暑くとも長袖長ズボンがいいでしょうか?」
エレオノーラさんのその返事を、今日の感じなら、運動するには半そで半ズボンでもいいんじゃないのかなんて耳にする。
けれどもちろん、長袖長ズボンの用意がされるのは、気温は関係ないようだ。
「そうだな。まあ、この城にいる以上は、兵士たちにも慣れてもらわないといつまでもルカの自由がない。私がついていくのだから、それでいいだろう。シンプルで、シンプル過ぎてルカの魅力が引き立ち過ぎないものがいいんだが」
「難しいですが、選んで参ります」
大体何を言っているのかよく分からないのだけれど、要するに、兵士たちが私に興味を持っては困るという話のようだ。
やたら興味を持たれては私も困るけれど、フェロモンさえ抑えていれば、そうそう興味を持たれるということもないんじゃないだろうか。
と、そこまで考えて、ふと夢を思い出した。
夢といえば、あの夢だ。
ソムニウムに見せられる、あの淫夢。
出会う人々全てと、関係を持つ可能性があるかのようなあの夢。
私はゆっくりと静かに深い呼吸をして、その記憶を追い払う。
まったく、そんなことがあってたまるか。
まして、私の行動によっては、淫魔になる可能性があるとかどうとか、信じたい話ではない。
一方で、あの夢がただの夢だと言い切れないのも、また私にとっての事実。
朝の訓練についていきたいと言ったことを後悔しながら、なるべくクラウス様から離れずにいようと改めて思った。




