朝食前に朝のお茶の時間があるんですよ
着替えが終わったら、クラウス様の部屋に向かう。
といっても、隣の部屋だ。
私の部屋にはクラウス様の部屋から直接入ることが出来る。
といっても寝室が隣り合っているのではない。
私の部屋は、寝室も兼ねているけれど、私の部屋に入ることが出来るクラウス様の部屋というのは個人用の居間、のような場所だ。そこは城に仕えて住んでいる中でもごくごく一部の人たちしか出入りしないことになっている。
エレオノーラさんと執事長であるコンラートさん。それからクラウス様の姪であるヒルデガルドしか、基本的に出入りしないことになっている部屋の奥にいるのが、私なわけだ。
一応私の部屋ということで、クラウス様もプライバシーは尊重してくれている節があって、勝手にずかずか入ってくるようなことはない。
ノックをして私の返事があるのを待ってから入って来てくれる。
もっとも、私が気付かなかったり眠っていたりする場合にはそっと覗く、くらいのことはするみたいだ。
何せ私の部屋には鍵がないので、まあ、それで今現在の私たちの関係でもって、ノックをして覗いてくれるのは、ものすごく、尊重されている気はする。
ちなみにエレオノーラさんやコンラートさんも、クラウス様が部屋にいない時には、私の部屋までやってくることはない。
さて、そんな深い意味があるような部屋の配置については深く考えないようにしつつ、クラウス様の部屋に移動すると、大抵の場合はコンラートさんがワゴンと並んで私を迎えてくれる。
ワゴンの上には熱湯と、ハーブ、茶葉の各種とティーセット。
この熱湯、温度を下げずに運べるように、ミニコンロ、のようなものの上に薬缶が乗った状態で運ばれてくる。
これは私を作った先生の発明品で、目下グローセルング領で売り出し中なのだそうだ。
とはいっても、構造自体は簡単な物だから、それなりに技術があればどこでも作れるのだそうだけれど、まあでもこういうものは、目を付けたところがまずは早いよね。
それはともかく、コンラートさんと挨拶を交わした私が次にするべきなのが、このセットを使って、朝のお茶を淹れること。
このお茶を飲んでから、クラウス様は軽く体を動かして、それから朝食というのが朝の流れなのだ。
で、クラウス様のお茶を淹れることになったのが私ということで、折角なのでその日の体調や気分に合わせてお茶を淹れることになったわけだ。
「昨夜のお休みが遅かったために、体調に変わりはないものの、今朝はスッキリするものがいいとのことです」
「お酒は?」
「昨夜はお召しになっていらっしゃらないかと」
そんな言葉を交わして、私は何をどう配分したものにするかを考える。
そうして選んだハーブ、茶葉などに湯を注いで蒸らしている間に、コンラートさんはクラウス様を寝室から連れ出してくる。
いや、連れ出すというと変か。
あくまでコンラートさんが行っているのは、お茶の用意が出来たという伝達だ。
この時に、実はベッドに入る直前に寝酒を口にしていたとか、朝起こしに部屋に入った際には分からなかった体調不良があるとかいうと、コンラートさんがそっと私に教えてくれる。そうすると、ハーブの配合を変えたりもする。
「やあ、おはようルカ。いい香りがしているね」
着替えたり身だしなみを整えたりして時間が過ぎているとはいえ、寝起きとは思えないきらめく笑顔を向けられる。
もう毎朝のことではあるのだけれど、なかなか、こういう人にどういう顔を返せばいいのか分からないものだ。
仕方がないので、どうにか笑顔らしきものを返すしか、私には出来ていない。
「ええと、今日は香りの強いものを使っているので、クラウス様のお口に合うといいんですけど」
そう言って、ソファに腰掛けたクラウス様の前のテーブルに、カップを置く。
「いや、ルカの淹れてくれるものはどれも美味しいよ。正直ハーブには興味はなかったんだがな。飲んでみると、いいものだな」
それは好みの外見のホムンクルスを口説くための言葉なのではと思うのだけれど、カップを口に運んで中身を口にしたクラウス様は、それが本当だとばかりに僅かの隙もなく笑顔を見せるのだ。
「うん。やっぱり今日もいい味だよ。足りなかった眠りが満たされて目覚めを迎えるような気分だ。ルカは、同じ物を? それとも違うものをエレオノーラに淹れさせようか?」
「それは、同じ物を」
ティーポットにはたくさん用意してあるし、わざわざ違うものを淹れてもらうというのは、なんだかとても馬鹿らしいと感じてしまう。
私は自分用にハーブティーを用意すると、クラウス様の前に座って一緒にそれを飲み始めた。
あとは、クラウス様が朝の鍛錬だかを終えるのを待って朝食なので、それまでは基本的には自由時間だ。




