貴族って1日何回も着替えるものだそうですよ
わたしの朝は、クラウス様よりほんの少しだけ早い。
本当に、ほんの少しだけ。
朝はメイド長であるエレオノーラさんが起こしにきてくれる。
起こしに来なくてもいいと伝えてあるのだけれど、どうやら私の着替えを楽しみにしているらしい。
どの服もエレオノーラさんの力作なので、実際に着たところを確かめたいと言われると、断れない。
それに、毎朝、二人で服を着た際の見栄えや、着心地について話をするのは、私も楽しい。
なんというか、美少年に対する視点について、彼女とは気が合うのだ。
問題は、その美少年が自分だということだ。
けれど最近では、毎日鏡を見て生活を送っているおかげか、段々、この美少年こそ自分であることに対して落ち着いた受け止めが出来るようになった気がする。
もっとも、未だに、前世の自分の姿がそこにないことが不思議なのだけれど。
今日の服は薄水色のシャツの首元に青いリボンタイに青いベストとハーフパンツ、白いハイソックス。
シンプルながらやはり丁寧な仕立てに、素晴らしい動きやすさ。
私がクラウス様のお茶を淹れるので、普段着は動きやすさ重視にしてもらった。普段着といっても、庶民感覚からすれば、ちょっといいところにお出かけ出来るような質のいい布と仕立てだというのは、元庶民である私にもよく分かる。
「ふふ、よくお似合いですよルカ様。夜にはもう少し黒が効いたデザインを用意していますのでお楽しみに」
エレオノーラさんは大変楽しみであるというようにご機嫌な様子だ。ちなみに、エレオノーラさんと執事長のコンラートさんは、私が名前をもらってこの部屋で過ごすようになってからは『ルカ様』と私のことを呼んでいる。正直なところ様とかどうとか呼ばれるのは居心地が悪いのだけれど、二人によるとそこは譲れないのだそうだ。
ところで、私にはふと気になったことがあった。。
夜には、というところではない。
ことあるごとに着替えるのが貴族式、というのには、まだ慣れないが少し理解もしつつあるので、夕食時だけではないが、その際に着替えがあるのは分かっているのだ。
そうではなく、お楽しみに、というのは新しい服が用意されているということなのだ。そうと分かったのは、エレオノーラさんに着替えをさせてもらうようになって少し経ってからだったのだけれど。
ともかく、何が気になったのかというと。
そんなに服を用意してもらわなくてもいいのではということ。
エレオノーラさんが大変だろうというのもあるけれど、数日暮らしている間にすでに一日一回の着替えだけで過ごすなら一か月は軽く過ごせる服を消えてもらっているのだ。
だからつい聞いてしまった。
「あの、楽しみですけど、服はもう十分作っていただいた気がするんですけど」
いつもノリノリで服を用意してくれているエレオノーラさんにどう言いだすべきか、悩ましいところでもあったが、少し遠回しな言い方でも伝わってくれただろうか。
とこれまた弱気になりかけたのは、向けられた表情が、きょとんとして何を言っているのかといったものだったからだ。
「あら、あらあら」
それから、笑っているような、納得しているような、声を出したエレオノーラさんは、咳ばらいをしてその声を止めると、にこりと笑った。
「なるほど、ルカ様つつましくいらっしゃるのですね。でもどうかあなたのために用意されたものに、遠慮なさらないでくださいね? クラウス様もですが、わたくしやコンラートもこの部屋にあなたをお迎えしたことを、とても喜んでいるんですから」
「はあ」
ついそんな返事になってしまったのは、言われたことの何もかもがよく分からなかったからだ。
つつましい、とか。
この部屋に、とか。
どういうことだろうかと聞けばいいのだろうけれど、部屋については特に、聞きづらさを感じてしまったのだ。
もっとも服に関しては、その後クラウス様もヒルデガルドも一か月毎日別の服、どころではない量のものを持っていることが分かって、なるほど私の感覚はつつましいなと思ったのだけれど。




