体が目的なら利用してやる、なんて似合わない話なんですが
とある国、とある領、その領主の愛玩人形にと作られたはずのホムンクルスとして目覚めて数日。
一度は閉じたはずの人生、つまり前世の記憶を持ったままながら、私、ルカはそれなりに暮らして始めている。はずだ。
国の名前はフォルセ国。領の名前はグローセルング。
そして私の持ち主であるところの領主の名前はクラウス・フュルスト・フォン・グローセルング、だそうだ。領の名前と姓が同じなのは、かなり古くからこの地に根付いている家だからなのだとか。
そして国における地位は侯爵と、かなり高いらしいが、とりあえずその辺りのことには私は詳しくはない。
ホムンクルスとして作られた体に知識はあるが、辞書を読んでいるような知識で、私個人にとっては「ふーん」と聞き流すような話だ。
何せ私にとっては国の中でも偉い領主様、というよりは、私の体である美少年ホムンクルスを愛玩用に作った人という位置づけだ。
要は私の、というべきか、この少年の体のというべきか、ともかくその貞操を奪う相手なんだか、捧げることになる相手なんだかというわけだ。
こんな曖昧な表現をしているのは、未だこの体の貞操が奪われていないからだ。
前世の、女性として一人分の一生の記憶を持つ私にとって、いくら自分が人形にイレギュラーに目覚めた自我だとしても、人形としての扱いを受け入れることは難しかった。
かといって、この世界での居場所も何も持ち主に依存せざるを得ない作られたばかりの存在が、権力者に逆らうのも無理がある。
逃げたところで、体が子どもでは見知らぬ世界で生き延びるなんて到底出来るわけがない。
そんなわけで提案してみた『自由恋愛としてなら領主のものになることを検討してもいい』というような言葉を、領主様は『口説いてものにするならOK』と受け取ったらしい。
私は私の提案が受け入れられない可能性も考えていたのだけれど、案外あっさりと受け入れられたため、現在、盛大にアプローチを掛けられている。
かというと、実は、そうでもない。
いや、表面上はそうでもない、というのが正解だろうか。
領主、クラウス様は、『まずはお互いにお互いをよく知らなくてはな』と、まずは私がこの城での生活を日常と出来るようにすることを優先すると言った。
なので、明確に、直截に、口説かれているという感じはない。
けれども、例えば私が淹れるお茶についてさりげなく『私が淹れることがいい』という内容を伝えてきたり、着替えればその度に似合う様を褒めたり、とにかく、こちらが一歩近づけばいつでもその先に進む用意がある感じが伝わってくる。
正直なところ、クラウス様はかなり格好いい。
髭に領主らしさを求めるのも変だが、髭が格好良さを増している細身だが貧弱ではない長身の頼りがいを感じさせる男性だ。
年のころは確かめていないが四十前後なのではないだろうか。
声も、落ち着きがあるいい声で、不意に近くで話しかけられてどきりとすることもあるくらいだ。
客観的に見れば、いくらでも相手がいるはずと思える好人物なのだ。
では私個人の目で見ればというと、超素敵なイケオジ、なのだが。
どう言い表したらいいのか。
褒められることに慣れていない身で一つ一つ褒められるのが、困る。
そしてこの人が望んだのはそもそもこの体、この容姿であって、『私』ではないのが、困る。
つまり、最終的に口説かれてしまうなんてことは、あまり想定していないことなのだ。 私にとって。
それでも自由恋愛ならよしだなんて言って、現状を作り出したのは、先に述べた理由の通り。
とにかく少しでもマシに生き延びる選択がそれだったというだけだ。
クラウス様に実際に出会うまでは、大人の人形遊び用にホムンクルスを造ろうなんてどんなエロジジイだ、なんてことも思っていたわけだけれど。
想像していたことが覆されたおかげで、予想よりもずいぶんマシな日々を過ごせることになった。
かといって、それが生き延びるための選択だった結果であることには変わりはない。褒められたり、口説かれたりして困るという私の気持ちにも違いはない。
つまりまあ、当分、現状維持が私の目標だ。
クラウス様と接していると、現状維持を目標にしているのは少し申し訳なくもなるのだけれど、恋愛は申し訳なさで成り立つものではないのだし、せいぜい口説いてもらってしまおう。
ちなみに私が領主様をクラウス様と名前で呼ぶようになったのは、ご本人の要望があったからだ。




