つまりホムンクルスの命運を背負えと言っていませんか
「うん、でもやっぱりここからかな」
しばらくの間、私の顔をちらちらと見ながらも、自分が言うべきことを考えていた様子だったソムニウムが、にこりとうなずく。
私はほとんど紅茶を飲みきったカップを置くと、ソムニウムの顔をまっすぐに見てその言葉を待った。
目の合ったソムニウムは、その笑みをさらに深くして目を細める。まるで日向の猫のようだと思ったが、彼だか彼女だかから感じるものを言葉に込めるのなら大型ネコ科動物の方がいいのかもしれない。
見た目は上品な長毛種、感じる雰囲気は大型肉食獣。
そんな相手の笑みは、ほとんど舌なめずりだ。
けれどそれだからといって、私に出来ることはなかった。
逃げた方がいい気がするけれど、これが私の夢なら、覚めなければ逃げようはない。
そんな私への感想なのか、ソムニウムが、ふっと笑いを吐息にこぼす。
「やっぱり君でよかったってことかな」
どういう意味かと私は片目を半分閉じたけれど、それがソムニウムに気にされた様子はない。
ソムニウムは、さあ、とでもいうように軽く両手を上げて口を開く。
「まずは君がひっかかった、ホムンクルスの魂について、だ」
ひっかかったというか、変だと感じたというか。
ソムニウムが言ったように、ホムンクルスにある程度の従順さが与えられているのなら、それは従順さが必要ということだろう。
本来、自我のない人形は完璧に従順なのではないだろうか。
自我があることが即ち魂を持つということかどうかは、証明のしようがないけれど、従順さが必要な自我を持つホムンクルスに魂がないという説明にもならない。
「君の考えている通りだよ、ルカ」
たったそれだけの言葉すら、口にしたソムニウムは美しさをあふれさせる。
けれど言われた内容を考えれば、その美しさが救いになるかといえばそうではなく、むしろ残酷さを突きつけるものに感じられる。
「つまり、私以外のホムンクルスにも、魂があり、自我が存在するということ?」
「そういうこと」
重い溜息とともに尋ねた私に、返事はとてもあっさりと返されてしまった。
何だかがっくりと体の力が抜けてしまった気がする。
何となくそうかと思いつつも、はっきり肯定されていい気のする話ではない。
「自我も魂もありながら、世の中ではお人形として扱われているホムンクルスがいる、ってことでいいの?」
「そうだね」
それも、肯定されてしまった。
ため息を吐く気力ももうない。けれどはっきりさせておきたいことが一つ。さらに、聞いておきたいことがもう一つはある。
私は背もたれにぐったりと背中を預け、ずるずると体をずり下がらせながら聞いた。
「でもじゃあ、私がこうしていられるのは、何で?」
けれどソムニウムは、その問いにははっきりとした言葉を返さなかった。
どころか、曖昧な表情で肩をすくめてみせる。
「さあね。君の設計者のミスか、何かかもしれないけど。まあでも、ぼくにとっては好都合だったのは確かだ」
好都合、とは。
今度こそ本当に逃げた方がいい気がしながら、私はだらしないこと極まりない姿勢を正して座りなおした。
ソムニウムはそんな私に再びにこりと笑いかける。
もうとどめを刺されかけている気分だけれど、相変わらず私のこの夢は覚める気配が微塵もない。
姿勢を正すのが、精一杯の抵抗だなんて笑う他ない。
「いい覚悟だね。でも別に、そう大した話じゃないよ」
ソムニウムはそう言うが、それが信じられるわけもない。
「ただちょっと、そうだね、別に本気で取り組まなくてもいい。でも、少しだけ、君が現在唯一、自我を表し活動出来るホムンクルスであることを自覚して、ホムンクルスの未来について考えてみて欲しいっていうだけだよ」
本気で取り組まなくてもいい、なんて言葉、その実、死ぬ気で取り組めっていう意味だとしか思えない。




