美しさいからといってただ見惚れているわけにはいきません
「体のせいっていうのが、よく分からないけど」
ソムニウムの言葉に感じた不快さを、どう言い表していいか分からず、扱いやすかった話題を口にしてみた。
私が他者の要求に弱いというのがこの体のせいというのなら、何か仕組みがあるのだろう。だがそれは私にはよく分からない。
「ん? 知らなかった?」
ふむ、とソムニウムは口元に手を置いて、一瞬考える素振りをしてみせた。
その様だけで、画家は筆を手にしてキャンバスに向かいたくなるだろうな、なんて考えた。
「まあそういうこともあるかな。誰にでも知られていいことではないだろうしね。現在確立されているホムンクルス育成技術では、育成の基本に従順さが組み入れられているってこと」
「はあ……」
言われた言葉そのままの意味は把握した、という程度にうなずく。
その後すぐに、その説明がおかしいことに気が付いた。
ホムンクルスには魂は宿らないとされているのではなかっただろうか。
その意味について、私の理解が間違っていなければ、自我を持たない、自分の意志を持たない存在であるということだ。
だからこその『お人形』のはず。
それを何故、従順さを持たせるのか。
お人形は、お人形であるというそれだけで、従順でもあるはずなのではないだろうか。
私が唇を引き結ぶと、ソムニウムは、笑った。
よく気が付いたね、というように。
その表情に、ソムニウムが言いたいことは予想出来つつもあったけれど、そうとするにはもう少し確証が欲しくて、言ってみた。
「ホムンクルスの設計に関する本は読んだけど、性質に触れるような記述はなかった」
「へえ」
ソムニウムは面白そうに笑った。
「何か不自然な点でもなかった? 一部分だけ文章が消えているとか、ページが破られているとか」
その言葉は、驚きに声を上げるなんてレベルではなかった。
声も出ない。
私は息が苦しくなるまで呼吸すら忘れてしまった。息をすることを思い出させてくれたのは、ソムニウムがティーカップをソーサーに置いた音だった。
でもそれは、私には鍵がかちりと音を立てて扉が開いた音にも聞こえた。
先生から借りて読んだ本の、妙に綺麗に切り取られたページの痕跡。
失われたそのページに書かれていたことがソムニウムの言葉を裏付けるものなら、つまりそれは。
私はある答えに行きついて、大きく溜息を吐いた。
それはもう、盛大に。
ついでに背もたれに思い切りもたれ、ぐらつく頭を乗せた。
そんな答えに、行きつきたくなかった。
それが真実なら、触れたくなかった。
もうこのまま布団に入って眠っていたい、なんてところまで考えて、そもそも今が夢の中だと思い出す。
つまり逃げ話だ。
今度はやれやれ仕方がない、そいう気持ちで息を吐き出すと、私はどうにか頭を上げてソムニウムに向き直った。
私は酷い顔をしているのに違いないのだけれど、相対する顔は、憎らしいほど綺麗に笑っている。
「……大事な話っていうのは、ホムンクルスっていうものの体とか魂とかって話なわけ?」
答えが是なら、私の考えは間違いがないことになってしまう。それでも聞かないわけにはいかなかった。
お人形とされるホムンクルスに自我があるならなんて想像を抱えたまま、これからホムンクルスとして生きていくのはちょっと辛すぎる。
そして実際に尋ねてしまったのは、そんなことに気が付かせてくれやがったソムニウムという存在を、これを聞かないまま受け入れることも通り過ぎることも出来ないと思ったからでもありながら、私の心情自体は、ヤケ、そのものだった。
「ああ、うん。そう。といっても、それはこれから説明することによる副産物に関わるっていうかね?」
どう説明したらいいかな、と小首をかしげたソムニウムは、宗教画として成り立ち信仰を集めそうな美しさだった。
けれどもそもそも、美しさがどうこう言っている場合ではないことに、うかつにもようやく気付いた私だった。




