一体何の話があるのやら本題はまだ分かりません
何もない空間に姿を現したのは、不思議な存在だった。
人型は人型だが、細身の体は女と見るには凹凸がなく、男ではないのは確かだ。なんていう判断をするのは、服を着ている様子がないからだ。
夢の中に出てくる相手の性別をどうこう考える必要は、大してないといえばないのだろうが、この相手の場合性別がないのだと判断する方がいいような雰囲気を持っていた。
ちなみに年も、よく分からない。瑞々しさも、老齢さも感じられる。
ちなみに服を着ている様子はないが、裸としての生々しさもない。
その辺りが、性別どうこうを考えなくてもいいような判断をさせているのかもしれない。
「やあ」
そう言っていかにも気安い調子で片手を上げると、私に向かって微笑んで見せた。
顔はなんというか、綺麗。
けれどその綺麗は、空を見て綺麗とか、海を見てきれいとか思うような、そんな綺麗さで、綺麗な顔の人を見ている、という感じではない。
どう反応したものか分からず、ひとまずその綺麗さをぼんやり眺めていると、瞬時にその顔が近づいて来た。
「どう? ぼくのこと見えてる?」
驚いて身を引いた私に、距離の近さを気にする様子もない。
こんなところも、少し不思議かもしれない。
「まあ、うん。見えてるけど」
「そう。よかった。……ああ、名前がないと呼びにくかったりするかな? そうだなあ」
距離を変えることなく考え込んだそいつから、私はもう一歩下がって距離を取る。
あまり距離が近いと話しにくい。
「そうだ、ソムニウム、にしておこうかな」
「はあ……」
うなずきつつも、人の名前らしくはないかな、なんて思ってみた。
とはいえ、本人が名乗った以上、名前らしくないなんていう必要もない。
ともかくソムニウムは、何か話があって姿を現したはずだ。
「話っていうのは?」
要件を問うと、ソムニウムはそんなに急かさなくてもいいじゃないかとでもいうように、微笑みながらも肩をすくめる。
「大事な話だからね。立ち話ってものでもないかな。まあ、座ろうか」
何もない場所で何を言っているんだ、とツッコミを入れる暇もなく、気付くと私もソムニウムもやたら豪華なソファに腰掛けて向かい合っていた。
ソファだけでなく、床も、壁も窓も、天井だってある。ご丁寧に窓の外は薔薇の咲き誇る庭園が広がっていて、この部屋らしき場所もあちらこちらに薔薇の意匠が使われていた。
「……夢って便利だって言うべき?」
そう口にしてしまったのは、突然の変化にうろたえてしまっていたからだけれど、ソムニウムはふふ、と笑った。
「それはあるね。夢を見ているから、君もこの場所に居られる」
それはまるで、これが夢なのではないかのような言いざまだと思ったが、深く追及する気は起きなかった。理解が追い付く気がしなかったからだ。
「それで?」
「うん。まあ、お茶でも飲みなよ」
話はと促したつもりだったのだけれど、何故かまたいつの間にか二人の間に置かれたテーブルの上に、お茶が用意されていた。
仕方がないので、カップを手に取って飲んでみると、確かにお茶の、ほんの少し甘い味が口の中に広がった。
「紅茶……」
「好きでしょう?」
なんて言われても、どう答えていいのやら。
確かに紅茶は好きだけれど、夢の中でこんなにはっきりと味というものを感じたことなんかこれまでにない。
なんとなく、夢を見ているからこの場所に居られるという言葉の意味が、分かる気がして戸惑う。その意味を、追っていいものかどうかという戸惑いだ。
そんな私を、ソムニウムはおかしいと感じたようで、笑われてしまった。
「まったく、君はそうやって自制が過ぎるところがあるよね。かと思うと、あのフェリクスっていうヤツみたいに、自分の要求を突き付けてくる相手には甘いところがあるし。まあでもそれは君の性分もあるけど、その体のせいもあるのか」
言われて、ついはっきりと表情を歪めてしまった自覚はあった。
確かにするかしないかを選択しなければならない時はしない方を選ぶし、人の要求がはっきりしている時は、まあ、よほど嫌でなければ聞き入れるかもしれないけれども。
はっきりそうだと言われるのは、何というか心外だ。
その上、この体のというのは多分ホムンクルスの体のせいだろうが、自分の判断に関係ないところに原因があるかのように言われると、それに気が付いていなかったこともあって、心外さは増大するのだ。




