新しく身を置くことになった部屋は領主様の部屋と続き部屋みたいです
というわけで。
私は先生が部屋を使っている建物から、領主様とヒルデガルトが暮らす居館に移ることになった。
といっても、別に居館から出てはいけないなんてことはないし、暇があれば先生のところに出入りするのも自由だそうだ。
「主に私に付いているようにといっても、来客もあれば領内の視察に出ることもあるからね。……そういう時は、君を人目に触れさせる気はないよ」
そう言った領主様は、これまた器用なウインクを添えてくれた。
ウインクの似合う中年イケおじ。
そう表現していいだろうし、多分本人もそれを分かってやっているんだと思う。
本人にその気があれば、女性にもモテるだろう。いや、すでに実際モテてはいるのかもしれない。
男性にはどうだろうか。
その辺りは正直なところ私には測りがたい。
ただ、なんとなくだけれど、少なくとも執事長であるコンラートさんやメイド長の信頼は得ている気がする。
主として信頼出来る人がモテる人かどうかと、だからといって恋愛に発展するかどうかというのは、さて、どうだろう。
とはいえ、領主様の好みの具合からすると、いわゆる少年といわれる年齢の男子にモテないといけないわけだ。
モテるかどうかは置いておいて、親しみや尊敬は得られるかもしれない。
ふむ、と私は昨日、一昨日を過ごした部屋とは違って、厚い絨毯と温もりを感じる壁掛けのある部屋をくるりと見回した。
場所は、私のために用意したと案内された部屋の中だ。
贅沢な感じはあるものの、華美ではないし、落ち着く内装だ。
広さでいえば、ベッドとテーブルと本棚があって、一人で過ごすには十分に余裕がある。
部屋には扉が二つあるのだけれど、一つは多分、領主様の部屋だと言われた部屋に繋がっている。そんな位置だ。
これは、あまり深く考えないことにする。
私が与えられた部屋で何故ぼんやりと考え事をしているかというと、領主様に来客があったからだ。
執事長は部屋に案内してくれてからどこかに行ってしまった。部屋にある鈴を鳴らして呼べば来てくれるとのことだが、そうそう呼びつけるのも悪い。
メイド長はいつの間にかいなくなっていたので、仕事があるのだろう。
ヒルデガルトと先生は、お勉強の時間だそうだ。
ヒルデガルトは私について来させたがっていたが、領主様が『環境が変わるというのは疲れるものなんだ。夕食には同席するのだから、休ませてあげなさい』なんて言ってくれたおかげで、私は一人部屋にいるというわけだ。
領主様の言葉から判断するなら、夕食までは私は多分それなりに暇があるのだろう。
そしてやることもないので、実際に退屈でもある。
先生の部屋なら読む本には困らないのだけれど、とりあえずこの部屋には本らしい本は今のところ置かれていない。
クローゼットはあって、その中にはメイド長お手製と思しき服の数々が並んでいた。
どれもさすがはメイド長という服なのだけれど、それをとっかえひっかえ着てみる、という気にはなれない。
メイド長の作った服を身に付けるのは、やはりメイド長がそこにいてくれてこその楽しみというのがあるのだ。
そういうわけで、特にやることがない私はベッドに腰掛けて部屋をぼおっと眺めているというわけだ。
先生の部屋に本を取りに行くことも考えてはみたものの、途中誰か私の存在を初めて知るような使用人と出会うようなことがあると、ちょっと面倒だ。
フェロモン云々だけではなく、そもそも、どうしてこんな年頃の少年が領主の城を自由に歩いているのかという話になりかねない。
時間があれば自由にしてもいいと言われたからといって、本当に好き勝手にしているには、確認しておかなくてはいけないことが多い。
仕方がないので、単純な魔力の練り方でも練習しておくか、と床に足を下した。
光球を作り出して、維持し続けるのだ。
魔力を魔術とする初歩の初歩。けれど維持し続けるには、魔力量そのものと魔術への適性が必要だ。
とはいえ、すでに私は光球を維持しながら、他の事にも意識を向けるくらいのことは出来るようになっている。
光の玉を手のひらの上に作り出した私は、そのまま部屋の中をぶらぶらと歩きまわってみることにした。
特に何か新しい物が見付かると思ったわけではない。
単に、じっとしていることに飽きただけだった。
けれどそこで、窓の外と本棚の一角に面白そうなものを見かけることが出来た。




