会ったその日に領主様と同衾、という展開ではなくなりました
ヒルデガルトほどではないが、領主様の言葉に私も驚いていた。
寝起きするのが領主の寝室ということは、ベッドを共にするということ、ではないだろうか。それとも寝室に私用のベッドを新たに入れるということだろうか。
領主様の顔を確認すると、とても嬉しそうににこにこしている。
あ、これ、同衾するってことで確定だな。
私が受け入れる気になれば領主のものとしてくれて構わない。なんていう申し出を受け入れてくれていたはずの人が、まさか顔を合せてその日から、一緒に寝ろと言い出すとは思わなかった。
「な、そ、そんなの、そんなのダメに決まってるでしょ!? そういうのは、ルカがいいって言ってからよ!!」
私の気持ちの代弁というには、かなりうろたえてしまっているヒルデガルトが、どうにか彼女の受けた衝撃を言葉にする。
「わかってる、わかってるさ。だから、それでいいかと聞いているじゃないか」
ヒルデガルトの勢いを気にする様子もなく、領主様は飄々とした態度で答えている。
思春期女子の感情を受け止めるには、まあ、望ましい態度ではある。ヒルデガルトが気に入るかどうかはともかくとして。
「そんなの、聞いたからっていいってものじゃないでしょ!? 叔父様に聞かれたら、ルカだって嫌だって言いにくいじゃないの!」
それはヒルデガルトの言う通りで、無体を強いられるのならともかく、いいかと聞かれるとノーは言いにくいのが私の立場だ。
私の意思が尊重されることと、私に関する決定権が私にあることとは違う、という話。
「まあ、それもそうか」
しかし領主様は本来彼にあるはずの決定権を、あっさりと使わなくてもいいという態度をとる。それが今だけのことであろうと、姪に言われたからであろうと、出来るのはすごい。
と思うことも出来るし、私の歓心を得ようとしているようにも考えられる。
どちらにしても、損をしても得を取れるタイプ、と見ておいていいのかもしれない。
こんな分析をしたところで、彼が本当に駆け引き上手なら、私に勝ち目はどのみちないのだけれど、それについては今のところは考えないでおきたい。
こうして実際に領主を前にして感じているのは、この人が私を本当にそばに置こうとしているなんてことが心底信じられないということだからだ。
なんというか、軽いお遊びというか、自分の趣味も兼ねてちょっといいものを買ってみたくなったというか、そんな感じなんじゃないかという気がするのだ。
違うだろうか。
「だが、ヒルデガルト。ルカはもともと、私の寝室に置くためにフェリクス先生に作ってもらったんだぞ? それでもダメだろうか?」
そうこう考えているうちに、あ、やっぱりそういう目的のホムンクルス育成だったんだ、ということを領主様がさらりと口にする。
寝所用ホムンクルスっていうと、なんだろう、ものすごい響きだ。
それが自分なんだと思うと、少しはこの運命に逆らうべきなのでは、なんていう気持ちも湧いて来る。
そんな気持ちを打ち消したのは、ヒルデガルトの言葉だった。
「ダメに決まってるでしょう! ルカはお人形じゃないんだから、置くなんて言い方も失礼だし、夫でもない人の寝室に入るなんてダメだって言ったの叔父様じゃない!」
あー、参ったな。といった感じで苦笑しながら、領主様は頭に手を置いた。
なるほど、叔父として姪に語った言葉が、足かせになっているわけですね。もっとも、親代わりの叔父なら、そりゃあ姪には夫以外の男の寝室には入るなって言うのは当たり前だろう。
それが次期領主ならなおさら。
とはいえ、私の立場に対して、夫の寝室云々を持ち出してくるのは、ヒルデガルトの可愛いところだと思う。
よくて愛人枠、くらいなものだしね。
だがここでも領主様は、それはそうだなと苦笑しながらもうなずいてみせる。
ヒルデガルトの年齢を考えれば、愛人枠で話を通そうとしてもよさそうだし、いっそホムンクルスとして押し通したって構わない状況ではあるのだ。
それをしないのは、どうしてだろうと領主様を見ていると、何故か微笑みと共にウィンクを返されてしまった。
なんだか私の恋愛経験値では到底太刀打ちできそうない気がする。
「だったら、私の部屋の隣にルカの部屋を用意させるということでいいかな。基本的には自由に過ごしてくれていたらいいんだが、何か希望はあるかな?」
ウィンクには気づかなかったらしいヒルデガルトが、新しい提案に仕方なく同意をしていたところで、話は私に向けられた。
希望、と言われたところで、正直何をどうしたらいいのだか。
私は困って首をかしげるしかなかった。




