錬金術師が一人いると色んなことが出来るみたいです
入浴後の朝食は、昨日までと同じく、先生の研究室で摂る。
パンとスクランブルエッグにベーコン、サラダ。ミルクとコーヒーが用意されていた。
ミルクを見て、昨日ヒルデガルトに出したコーヒーの件を思い出す。
聞いてみると、やはり長期保存が出来る環境、つまり冷蔵庫のようなものはなくて、ミルクは保存は基本的にしないようだ。
そして、使う分はその都度火を通しているらしい。
殺菌、密閉が出来ないのなら、当然か。
今日はそんな話をしている場合ではない気がするが、その内冷蔵庫を作れないか先生と相談してみるのも、本当にいいかもしれない。
電気式でなくても、氷が調達出来るのなら、密閉性の高い箱でもいいのだから、魔術との併用でどうにかならないだろうか。
それはともかく、今朝は朝食中も執事長とメイド長がそろって部屋にいて、今日のこれからの予定について話してくれた。
領主に会うのは昼食後だそうだ。
昼食後、メイド長がやってきて改めて姿形を整えて、領主のところに執事長が案内してくれるとのこと。
それまでは自由にしていていいとのことだが、私が現時点で自由にしていられるのはこの建物の中くらいなものなのだ。城の使用人に姿を見せてもいいと言われてところで、先ほどの反応を見ていると、一人で出歩くのは、遠慮したい。
一人で歩いていると、こちらにその気もないのに、変な文句を付けられそうな嫌な予感がする。
こう、なんというか、誘惑したのしないの的な。
うん、この部屋で過ごすのが無難だ。
というわけで、朝食を終えた後は、魔術に関する本を読んで過ごすことにした。
先生はというと、机に向かって何やら本を広げたり、書き物をしたりしている。
執事長とメイド長が部屋を出て行ったところで、セクハラまがいのことを仕掛けてくるだろうかとも思ったのだが、そんな様子はない。
先生の仕掛けてくることについては、今のところ私にとっては許容範囲とはいえ、されないならされない方がいいのだ。相手をするのも、ずっとだと面倒だし。
それでも、こちらから話しかけてみたくなることもある。
魔術に関する本を読んではいたが、体系や理論、基本の術に関しては詳細な記述がありつつも、難しいとされる術ほど詳細なものが少なくなってくるのだ。
難しい術ほど、大きな効果があるものでもあるので、簡単に誰でも使えるようではいけないのだろうか。
自分で研究、練習していけば、出来ないことはなさそうだが、それを今日の昼までに完成させることが出来るわけではない。
そういうわけで、私の集中も途切れ気味で、ちょっと先生に話しかける気になったのだ。
「……先生の仕事って、家庭教師以外に何かあるんですか?」
私を育成したのも仕事の内だろうが、そういうことではなくて、日常的な仕事という意味で聞いてみた。それなりに知識と技術のある錬金術師を、家庭教師としてだけ雇っておくのは非効率的だ。
「そりゃ色々あるよ」
顔を上げて答えた先生は、仕事の手を止める口実が出来たとでも言いたそうな顔をしている。
いいのかそれで。
「例えば?」
先生がこの城に雇われているのは錬金術師だからだとは聞いたが、具体的に何をしているのかはやっぱりまだよく分からないのだ。
「例えば、ってそうだなあ……。今やってるのは、温泉施設を増やせるかどうかの検討ってとこかな」
「……それ、錬金術師の仕事なんですか?」
何となく建設だとか建設資金だとかの問題ではないだろうかと思うのだけれど、違うらしい。先生はそうだとうなずいている。
「そうだよ。温泉目当ての滞在客はこの領地の大きな収入源だけど、だからって無尽蔵に施設を増やして温泉が枯れても困るわけだし、湯量の保証が出来ない場所に作るとわざわざ湯を引かないといけないし、まああとは増やした分客が増えるかっていうあたりとかね」
「ははあ」
なるほど、ととりあえずうなずいた。
地下水量だとか、地上の状況だとか、人の行き来量だとか、色々なことを合わせての検討が必要な話のようだ。
それが一人で賄えるのが錬金術師なのかもしれない。




