嫁に行くときはメイド長にドレス一式頼みたいと思います
気にしないとは言ったものの、気にはなる。
温かい、仄かにいい匂いのするお湯に浸かりながらも、私は本当にこの姿を城の人たちに見せてよかったのかと悩んでいた。
といっても、もう姿を見せてしまったものは仕方がないし、悩んでどうにかなることでもない。
悩まないという選択くらいしか思いつかない。
自分の顔というのは、鏡を通して見るものでも、意外とひいき目に見ているものらしいが、この場合逆の作用でも起きているのだろうか。
確かに自分の顔を初めて見た時、なんて美少年だと思ったけれど、でも、そんな衝撃によろめくほどではなかった。
それとも、自分で自分の美しさにやられるわけがないというだけのことだろうか。
例えば美しさの認識が数値上同じであっても、そこに衝撃を受けるか受けないかによって数値の受け取り方が違ってくる気もする。
その辺りどうなのか。
私の認識が甘いのか。正しいけれど衝撃を受けていないのか。
気が付くとそんなことをぼんやち考えていたわけだけれど、これも考えていてもあまり意味はないことだ。
のぼせる前に出ようと、メイド長の用意してくれた服を楽しみに、湯から上がることにした。
髪と体をざっと拭いたところで、バスローブを羽織ると、今日も執事長が髪を整えてくれた。
そして今日は何やら化粧水も用意してくれていた。
これもメイド長が用意した物らしい。
正直、化粧水がいるような肌ではないのだが、メイド長はそれでも風呂上りには肌の水分が蒸発するものだなんて言って準備してくれたらしい。
流石の気遣いと思いつつ、私への気遣いなのか領主への気遣いなのかどっちなのかと考えてしまう。
なんだかんだといいつつ、領主に会うことに関して、私自身気になっているようだ。
不安や恐れではないのだけれど、この感覚は何と例えたらいいのだろう。
わざわざ名付ける感覚でもないかもしれないと、目をつむる。きっとまだ直面できていないんだな。
今日には会う相手だというのに。
メイド長が用意してくれた服は、これまでのものの中でも最高の仕上がりだった。
薄水色のシャツは胸元にリボンを結び、袖口にふフリルがありつつも嫌味にも邪魔にもならない。
恐ろしいのは布の色に近い銀色の刺繍が細かくほどこされているところだ。
パッと見、刺繍があることすら分からないのに、光の加減で綺麗な模様が浮かび上がる。
これ、メイド長が作ったのだろうけれど、一体いつ作る暇があったのだろう。
それとも、細かい作業では分業をしているのだろうか。そう考えるには、縫い目がそろっている気がする。
怖くて確かめられない。
ジャケットとハーフパンツは濃紺。これまた細かい刺繍が黒い糸で入っている。
飾りボタン、レースの配置、何もかもが素晴らしい。
どうしよう、メイド長の気合が入り過ぎていて怖い。
いや、怖いというのは、嬉しさを表しての怖いなのだけれど、怖い。
「……お似合いです」
着てみたところで、私が鏡を見るよりも早く、執事長が感嘆の溜息と共に呟いた。
私に向けたというよりは、思わずといった言葉に、つい、照れてしまった。
目を向けると、執事長は口元を押さえていた。
本人にとっても、つい出てしまった言葉だったのかもしれない。
「あり、がとう」
「いえ、ええ、本当にお似合いです」
ぎこちなく返した私に、執事長は口調を改めてもう一度言ってくれた。
別に言い直してくれなくてもいいのだけれど、今度の言い方は実感を込めて力強うといった感じで、それはそれで照れる。
なんというか、嫁入り前にドレス姿を親族に見られた花嫁みたいな気分になってきた。
嫁入りしたことなんて、記憶の中でもないけれど。




