このお城の使用人たちの扱いがちょっと心配です
この容姿が人目を惹くことについて、私は実はあまり客観性を持っていなかったんだと気が付いた。
いや、本当は多分気が付いてもいないのだけれど、そう思わなくてはいけないことは分かった。
何せ、回廊から居館に入って浴室にたどり着くまでの間に、何人も犠牲者を出してしまったのだから仕方がない。
高そうな花瓶を割ったメイドも、のっぴきならない事情から床に這いつくばった執事も、剪定用の鋏を足の上に落とした庭師も、とにかく、本当に、申し訳ない。
フェロモンが出てなきゃただの美少年なんて思っていた節が、私にはありました。と反省しないといけない。
この反応を見るに、超絶美少年かもしれません。
実感はありません。
つい、思考までかしこまってしまう。あまりの申し訳なさで。
お給料が減らされないといいんだけど。
先生とヒルデガルトは私のフェロモンをまともにくらっているので、容姿の判断基準としてはあまり信用していなかった。
一方、執事長とメイド長は私に見惚れている様子はあったものの、冷静な対応をしていたので、この二人の前だとあまり自分の外見を思い出さずにいられたのだ。
ところがどうしたことか。
フェロモンを抑えている状態でもすれ違う人、すれ違う人が目をくぎ付けにし体を硬直させ、ふらふらと私に近寄ってくる。もしくは近寄ることも出来ずその場でうっとりとした表情になる。
ちなみに、のっぴきならない事情で床に這いつくばった執事は、コンラートさんが「みっともない真似はおよしなさい」と足払いをかけたためだ。
おかげで彼は結果として何もしてはこなかった。
執事長が一緒に歩いていてくれたことに感謝をする。
が、この周囲の反応を執事長はどう捉えているのだか。
私が姿を隠さないでいいということについて、執事長は明らかに伝言として口にしていた。ということは、決めたのは領主だろう。
本当にこの決定をしてしまって、よかったのか。
私が決めたことではないとはいえ、不安になる。
「あの、コンラートさん。私、姿を出して出歩いてよかったんでしょうか」
浴室に入ったところで、これ以上は誰に見つかることもないのだが、ひそひそと小声で尋ねてみた。
小声なのは、何となく、まだ人目が気になったからだ。
だが執事長は、いつもの通りの執事長だった。
「かまいません」
何ということもないというようにうなずく。
「で、すけど」
ここに来るまでに出会った人数だけが、この城の使用人ではないはずで、これから出歩けば出歩くほど被害が増えると思うのだけれど。
物にしても、人にしても。
「お気になさる必要はありませんよ。少し使用人全体の質を上げなくてはならないと考えていたところでもありましたし」
え。
それは一体どういうことなのかと思ったものの、少し考えたところで、これは深く考えてはいけなにことだと頭を振った。
そうそう、領主様にとってだか執事長にとってだか分からないが、一挙両得感があるなあとか、考えない。
考えない。
むしろ私にしてみれば、城内を自由に歩いてもいいのであれば、いいことだし嬉しいことだ。そうそう。
上手く餌にも使われているかもなんて、考えない。
「……そうですね、じゃあ、気にしません」
あは、と頭の中をからっぽにして笑うと、執事長に静かながらも重いうなずきを返された。
うん、もう気にしない。
とりあえずお風呂に入ろう。