姿をさらしても大丈夫って誰が考えたことですか
ベッドの上で朝日を感じながら、今日はいよいよ領主様と会う日かと、ぼんやり考えた。
頭の中では、夢のこともひっかかっていたが、目が覚めてみると夢は夢だ。今考えても仕方がないことのように感じられる。
ベッドを下りたところで扉がノックされ、返事をするとメイド長が入って来た。
その後ろには執事長も続いている。
朝の支度時間にメイド長と執事長そろって私のところに来ていていいのかという疑問が浮かぶ。
が、この二人が何の考えもなくそうしているわけではなかろうと、口は出さない。
「おはようございます」
ベッドから下りて頭を下げると、二人からも頭を下げ返された。
二人の様子もこれまでと少し違って感じるのは、私がいよいよ領主と会うことになるからだろうか。
気のせいかもしれないが。
「今日はまずこちらにお着替えください」
メイド長の差し出した服はシンプルで、今までとは違い半ズボンのウエスト部分がゴムで伸びるタイプだった。
あったのか、ゴム。
ではなくて、領主様と会うぞ、という日に着る服としては何というか、少しイメージが違う服だ。
と思ったら執事長が続けた。
「今朝は朝食の前にこれから浴室を使っていただきますから、脱ぎ着は簡易な方がいいでしょう」
言われてみると、そりゃそうかとうなずくしかない理由が用意されていた。そりゃそうだ。
私は顔を洗うと、さっさと着替えて浴室に案内してもらうことにした。
部屋を出がけに、メイド長が『入浴後の服はもう用意してあります。自信作です』とひっそり、だがうきうきと私の耳元で教えてくれた。
自信作ということは、王子様タイプの服だろうか。
私も楽しみだ。
階段を下りて、先生の研究室を通らず外に出られるので、この建物は便利だと思う。単にあの部屋が、人の出入りを想定しているだけかもしれない。
建物の外、城の回廊に出ると、今日もいい天気だった。
が、中庭人影がちらほらと見え、ぎょっとした。
「……コンラートさん」
私が執事長を呼ぶと、何かと静かに視線が返される。
その視線に、この執事長の目が灰色なのだと気が付いた。
「人が、結構いるんですけど」
「ああ、庭師ですね」
執事長は特に何ということもないという声で答えるのだが、いやいや待てと言いたくなる。
「あまり人にこの姿を見られない方がよかったのでは」
まあ、別にフェロモンだってコントロールしているし、人がいるとはいえそれなりに距離はあるといえばあるのだが、その辺りの配慮だってしてくれると言っていたではないかと気になった。
「ご安心を」
執事長は何の問題もないと力強くうなずく。
本当かよと思う私に、執事長が続けた。
「あなたがこの城で過ごすことは、もう決まったようなものですから。いつまでも姿を隠しておくよりは、どういった存在が城にいるのか周知した方がよいとのころですので」
理屈は分からないではないのだけれど、そうなのだろうか。
むしろこの体の特異性を考えると、隠して置き続けた方がよかったのではないのだろうか。
つい挙動不審になりながら人影の方の様子をうかがってしまう。
仕事に打ち込んでいるのか、今のところ庭師らしき人影が私に気付いている様子はない。
思えば、この城で目覚めて以来、遠目に人の目に触れる、という経験はしてこなかったのだが、この堂々と姿を見せるという選択がどういう結果になるのかと考えると、不安が湧いて来る。
本当に大丈夫なのか。
結果からいえば、あんまり大丈夫ではなかった。




