なかなか真意が計れないお相手です、領主様
私が審問をどうにかやり過ごしたことさえ確認出来ればよかったのか、それともやり過ごしたことに安心したのか、ヒルデガルトはほどなく戻って行った。
『叔父様に知られると面倒』なんて言っていたので、審問官の存在をどう知ったにせよ、こちらに来ているとは誰にも知らせていないのだろう。
叔父に反発しつつも、それなりに言うことを聞いているのは、彼女にとってはどういう理屈によるものなのだろう。
保護者だからなのか、叔父としてはまあまあ信頼しているのか。
案外信頼しているから反抗するという線もあるかもしれない。
ともかく、私も先生も、今度こそ思う存分ぐったりしていいはずだ。
先生は相変わらず机に向かって座り続けている。こちらに来る様子はないので、私はソファの上でぐったりすることにした。
つまり体を伸ばして寝転ぶわけだ。
ソファのいいところは、二人掛けなら頭も足もひじ掛けに上げられるところだと私は思っている。
といっても、私のこの背丈ではどちらかしか上げられない。
私が選んだのは足を上げることだった。
やや行儀が悪いことは認めるが、足を上げて寝転ぶのは結構気持ちいいのだ。
ヒルデガルトがいる間は我慢したのだから、許して欲しい。
もっとも、先生が行儀にうるさいと思えないので、誰に許しをこう必要も、ないわけだが。
「先生」
「んー」
私がごろごろしだしても、先生は動く気配をみせなかった。
そういえば、寝不足でもあったはずだ。
ここはソファを譲るべきかもしれないとも思いながら、私はソファの占領を続ける。
「これで一応、私はこのまま領主様のホムンクルスであり続けるわけですが、領主様に会う予定は、予定通りですか?」
最初の予定の通りなら、明日にはもう領主様と会うことになるわけだ。
なんだかんだとあっという間で、先生は最初言っていたほどのことは、私自身について教えてくれなかった気がする。
もっともあとは私が知りたいことといえば、魔力の質が云々くらいだけれど。
審問官に、領主の管理下を離れて勝手なことはするなというような釘の刺され方をしたので、ひとまずこの世界の知識に関しては自分が持っている範囲のものでいいような気がしてきている。
まあなんというか、魔術の基礎も押さえたし、なんとかなるだろうという感じなのだ。
最大の問題は領主様との相性だが、そればかりは会ってみないとどうしようもない。
「ああ、うん。執事長さんが何も言ってこなかったらそうなるね。変更があるなら、明日の朝には言ってくるだろうし」
なるほど、と私は仰向けに寝転んだ胸の上で腕を組む。
さてどうなるか、と考え始めたところで、先生が声を上げた。ついでに体を起こす気配がする。
「あ、そうか」
何を思いついたのかと私も体を起こして見ると、先生は肘をついて顎を支えていた。
眼鏡の奥の目がずいぶんと眠たそうだ。
眼鏡、外しておいた方がいいのではなかろうか。
「それでだ。それでだよ」
だから何がだ、と思って先生を見ているのだが、私の視線に気づいた様子はない。
「今日、審問官が来たのは、君が領主様に会う前に済ませておきたいことだったからだよ」
そう言ってこちらを見た先生は、ようやく私が見ていたことに気付いたようで、ちょっと照れたように頭を掻いた。
「……つまり、何の懸念もなく、会えるように?」
先生はうなずいた。つまり領主様が今日の審問を設定したと先生は想像しているのだろう。だが、私の言葉は色んな意味にも取れるものだ。
私が最初に思った懸念というのは、私と領主様が顔を合わせたあとに審問があるようだと、その審問が領主様にも及ぶ、というものだ。
その次に、私が魔なるものだったら、というもの。
後者は自分では否定しているが、他の人に対しては証明のしようがないので、審問官の行いは私にとっても実は利があったわけだ。
ともかく、領主様はどちらのことを思って審問を受け入れたのか。
これも、当人に聞いてみないと分からないことだなと、私は再びソファに寝転んだ。




