疲れているのでこれ以上は許してもらえませんかとも言えず
審問官の三人は、執事長に送られて部屋を出て行った。
そこでようやく、私は緊張から解き放たれることが出来た。
先生も同様だったようだ。
私がソファの背もたれにぐったりもたれかかりながら見ると、先生は先生で机にこれまたぐったりと倒れ込んでいた。
緊張が取り除かれたので、お茶でも飲みたいところなのだけれど、お茶を淹れに隣の厨房にまで行く気力も湧かなかった。
気疲れといえども、体に表れるものだ。
「コーヒーが飲みたい……、いや、ワインが飲みたい……」
先生が誰にともなくぼやいているが、応じる気もなかった。
コーヒーは厨房にもあった気がするが、ワインはなかった気がする。
そんな感じでぐだぐだと休んでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
メイド長だったらお茶を淹れてもらおうかな、なんて思ったのだが、入って来たのはヒルデガルトだった。
慌てて体を起こした。
「ねえ! 審問官が来ていたって本当なの!?」
開口一番本題だ。
今の今までぐったりしていたので、このヒルデガルトに機嫌よく応対する気力はやや足りない気がする。
けれど今日一日こちらの建物に近づかないように言われていたはずのヒルデガルトが、こうしてやって来たというのは、心配してくれたからに違いない。それは目の前の彼女の顔からもよく分かるのだ。
疲れを隠す気力はなかったが、彼女の気持ちを思うと、流石に今は帰ってくれなどと言うわけにはいかない。
「……ええ、どのたかからお聞きになりましたか?」
「ええ! おかしいと思ったのよ、今日は先生の授業も休みで一日部屋で過ごしなさいなんて言われて!」
ヒルデガルトは泣きそうな顔をしながら、握った手を振るわせている。
「ご心配ありがとうございます」
私はヒルデガルトに頭を下げるしか出来なかった。
隠し立ても言い訳も、しようがない。
「お座りになっていかれますか?」
このまま立たせているのも、このまま帰らせるのも、彼女にとってはよくないだろうと思って声をかけると、素直に従ってくれた。
そんな気力もないとは思っていたが、お茶でも淹れるかと立ち上がる。
ふと先生を見ると、ほぼ机にへばりつきながらなんとか頭を上げて頬杖をついていた。私に向ける目が、『帰らせろよ』と言っている気がする。
先生の視線を無視して厨房に向かう。
何を淹れようかと思ったが、先ほどの先生の呟きに従ってコーヒーを淹れることにした。
飲み過ぎはよくないが、コーヒーにもリラックス効果はあるとされているし、甘くして飲むのもこの疲れた状態にはいいだろう。
生憎この厨房にはミルクは置いてないのだが、まあ、それは設備から見ても仕方がない。
あくまで飲み物を好きなように飲むためのものしかそろっていないし、当然のように冷蔵庫なんてものはないようだ。
それとも先生に言ったら作れるものだろうか。
少しして私が戻ろうと扉の前に立つと、先生とヒルデガルトは何やら言い争っているようだった。
それが、言い争っているというのが正確ではないと分かったのは、部屋に入ってからだった。
正確には、一方的に先生がヒルデガルトに文句を言い募られているのだ。
何故審問があることを黙っていたのかとか、教会は誤魔化せると言っていたじゃないかとか、自分が作らせたくせに審問の場にいない叔父は最低だとか、とにかく今回の件についての文句をあれこれと先生にぶつけている。
一方で先生は、言い返す気力がそもそもないのだろう。
ずいぶん適当な相づちだけをして、目は半分閉じていた。
「お茶でもと思ったんですが、コーヒーにしましたよ」
声をかけると、ヒルデガルトは自分が文句をまくしたていたことをバツが悪いと思ったのか、途端に大人しくなった。
先生はコーヒーを受け取りながら、『早く帰らせようよ』と目線を送ってきたが、これも無視した。それが出来れば、苦労しない。




