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審問官見習いの独り言3

 クラウス侯爵が錬金術師に作らせたというホムンクルスは、白い肌と金の髪、青い瞳と、少年体として作られたと知らなければ、少年とも少女とも見分けられない美しい容姿をしていた。

 審問官見習いとして、それなりに貴族階級と呼ばれるような人々も見てきた僕だけれど、着飾るでもなく化粧するでもなく、ただ美しいなんて人には会ったことがなかった。

 子どもなら、ましていっそう、だ。

 美しさには、その者の持つ落ち着きや態度も関係あるのだということが、よく分かった。


 その美しいホムンクルスは、一度人としての人生を全うしたと自称するだけあって、同じ年頃の子どもと比べるとかなりの落ち着きを持っていた。

 加えて、声はむしろ大人に近く、見た目の年齢よりも年上に見えた。


 このホムンクルスを作らせたクラウス侯爵とは、ホムンクルスに会う前にお会いしていた。

 今回の件で、侯爵がどう考えているかは僕には分からなかったが、育成の報告も変異の報告も、教会が定める通りに行っているため、侯爵が罪に問われるようなことはないのだそうだ。

 

 とはいえ、錬金術師を雇っている本人であることだし、ホムンクルスを作らせたのもクラウス侯爵であるので、このホムンクルスの変異が神々の意志に反するとなれば、何らかの席は負うことになるのだろう。


 それにしても当のホムンクルスを目にしてみると、このホムンクルスをあの侯爵が作らせたのかと、どうしても思ってしまうものだ。


 この美しく作られたホムンクルスは、当然ただの観賞用ではないだろう。

 観賞用なら、世話に手間のかかるホムンクルスである必要が、あるわけがない。ということは、流石に僕ももう理解している。


 こんなに美しく作られておきながら、場合によっては侯爵の寝所で生涯を過ごすことになるのだ。

 審問で抹消が決まるのと、どちらがこのホムンクルスにとってマシなのだろう。


 いっそ哀れだと思う程度には、その美しさに僕は心を動かされていた。


 だが僕たち審問官にとって、本来相手の見た目なんてものはどうでもいいことだった。

 場合によっては、むしろ、見た目の美しさによってこそ審問の対象となることだってありうるからだ。


 そういうわけで、僕は審問官としての節度を失わない程度の態度は保てていたと思う。

 嘘感知の法術を用いるまでは。


 ホムンクルスが高い魔力を持たされていることは、先に届けられた侯爵からの報告で理解していたつもりだった。

 法術を用いる力を法力とよ呼ぶ。一般に魔力や法力の高い相手には、法術を用いるのが難しい。

 感づかれる場合もあるし、術に抵抗されることもある。


 僕が法術の師にお墨付きをもらったというのは、法術を用いるのに難しい相手であってもそれなりにやっていける、というレベルにたどり着けたからだ。


 なのだけれど、まず術が成立するまでにかなりの法力を消耗してしまった。


 嘘感知の法術というのは、感覚としては自分の意識の一部を相手の意識に繋げるものだ。

 といっても、その時考えていることが嘘か本当か分かる程度なので、考えの表層ではある。法術の中には、意識そのものに繋がる術もあるので、同系統の術の中ではそう難しいものではないともいえる。


 ホムンクルスに伸ばした僕の意識は、その、『今考えている場所』を探しあぐねてしまったのだ。


 繋ぐための経路が見いだせず、あちらこちらを彷徨ってしまえばしまうほど、相手に気付かれる可能性は高まる。

 加えてホムンクルスは、僕の意識が触れていることを感じ取っていたように思う。


 それが何か分かっていたかは、分からない。

 けれど明らかに、触れられているという反応が見てとれた。


 見てしまった。


 それを見てしまった僕の覚えたものを、どう表現したらいいのか。

 表現するためには、僧侶として慎むべきありとあらゆる低俗な言葉を連ねるしかないものだ。


 幸いに術はどうにか成功し、ホムンクルスの意識に繋がることは成功した。

 繋がってさえしまえば、オレキエッテ師の問いに答えたものが嘘か本当か分かるのだ。

 ただ僕個人にとって、ホムンクルスの答えが全て本当だったことは特に問題ではない。


 ここまででも問題がなかったわけではない。けれど最大の問題は、オレキエッテ師の合図で術を解いた時だ。


 僕の意識を、僕自身の元に引き戻す。

 その間。


「……んんっ、ふう……」


 ホムンクルスが上げた声に、僕の理性が焼き切れるかと思った。

 それだけでなく、繋がる際にはあれだけ手間取った意識が、引くなとでもいうようにホムンクルスの意識に絡みつかれていた。

 

 それを、こともあろうに、僕は体全身で感じる羽目になってしまったのだ。

 あとのことは、ソファの後ろにしゃがみ込んでしまっていて、よく覚えていない。


 バルバ師からは、『おまえはよくやったよ』と慰められたのだけれど、しばらくの間オレキエッテ師に顔向け出来なかった。

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