庇護下っていうのは籠の鳥でいろって意味だと解釈しました
「なるほど」
オレキエッテは一言呟いて、目の奥にあった剣呑な光を隠し去った。
そう、多分消え去ってなどいないと思わせるのが、オレキエッテの口元の笑みだ。
教会の人ですよねとつい言いたくなるような、悪い笑み。
思惑が外れたと言わんばかりの顔。
ということは、オレキエッテが持ち出した聖水は、言葉通りのものだったのだろう。
神々の意志に背く存在に対して、効力があるものなのだろう。
正しく『聖水』だったわけだ。
けれど、そもそも自我を持ったホムンクルスなんてものを、教会としては認めたくもなかったのだろう。
私の受け答えが嘘であろうとなかろうと、そちらは上手く引っかけられればいいという程度のもので、ホムンクルスの自我を認めるか認めないかは、聖水に託していたのかもしれない。
認めたくないなら、正当な手段を使わなければよかったのに。
なんて、聖水をやり過ごしたからこそ思えることなのだけれど。
「バルバ」
表情をすっかり平静なものに戻しきったオレキエッテが、先生の報告を確かめていた審問官を呼ぶ。
先生が、聖水に反応して立ち上がってしまったことを気まずそうにしている横で、バルバは小さく首を振った。
「カッペッロ」
オレキエッテが振り向いたが、後ろにいるはずのカッペッロは、未だにソファの後ろで蹲っていたようだ。
呼ばれたことで、ゆっくりと立ち上がったカッペッロだが、顔が未だに赤い。顔には苦渋と恥辱が浮かんでいる。
見ていてちょっと可哀想になる。
私のせいというか、私に何やら術を掛けた審問官たちのせいというか。
カッペッロもまた、オレキエッテに首を振る。
二人の仕草を見て、オレキエッテは溜息というほどでもない、小さく息を吐いた。
座りなおしたオレキエッテが、改めて私に目を向ける。
「……ホムンクルスさん」
「あ、はい」
ホムンクルスさんという呼び方が、変な感じだと思いながらもうなずくと、今度こそオレキエッテは大きく息を吐いた。
それは、これから言いだす言葉をまとめるための間に感じられた。
「どうやら、あなたは錬金術師殿の意図で生まれた意識ではないようです。あなたの、以前の生に関わる証言も、嘘偽りはない」
嘘偽りがないと断言したことで、私の中に入り込んでいたあれが、やはりそういった類の術であったことがはっきりする。
変に抵抗しなくてよかったようだ。
「ですので、ひとまず、あなたには領主クラウス殿の庇護下で存在することを、教会として認めざるを得ないようです」
何となく本音が出ているような言葉だな、なんて思いながらうなずいた。
本当は嫌なんでしょ、という感じだ。
気が付くと、いつの間にかオレキエッテの後ろにバルバとカッペッロが並び立っている。
そろそろこの審問も終わりということだろうか。
「ですが、あなたがこれまでにはあり得なかった存在だということは、強く自覚していただきたい」
それはまあ当然だろう。
私も私をそこいらに、これこれこういう存在です、なんて言いふらして回ったりはしたくない。
私ははっきりとうなずいて見せた。
オレキエッテの言葉は続く。
「自覚があるのは、いいことです。ともかくあなたは、これまでになかった存在ですし、その気になれば多くの人を惑わすこともあるでしょう」
オレキエッテの視線がちらりとカッペッロに向けられ、それから、バルバ、先生に向けられる。
そこに触れられると、私には何の反論のしようもない。
「教会としても、私個人としても、あなたがその容姿と能力に溺れないことを祈ります」
「……肝に銘じておきます」
そう答えるしかなかった。




