審問官が来ましたが何だか強烈な不快感に襲われています
「教会より、オレキエッテ様、バルバ様、カッペッロ様がおいでです」
部屋に入って来た執事長が、扉の脇で恭しく頭を下げる。
その横を三人の男性が入って来た。皆、黒い長い筒のような服を着ており、首からは同じ形をした飾りをぶら下げている。
飾りといっても、多分、教義に関わるものだろう。
私の目には、星か光を表しているように見えた。
それにしても三人もやって来るとは思わなかった。それに、年齢も気になった。
一人は十代くらい、二人は二十代半ばといったところだろうか。審問官というから、何というかもっと年上のイメージがあったのだ。
私と先生は、三人が入ってくると同時に立ち上がっていたが、自ら挨拶をすることはしなかった。
執事長が、私と先生について、ホムンクルスとその育成を行った錬金術師だと紹介すると、二十代と思しき二人のうち、頭脳労働と交渉担当といった顔の男が形だけ微笑んで口を開いた。
「これはこれは、見事な腕前ではないですか。ここまで容姿の整ったホムンクルスであれば、何者かを引き寄せても不思議ではないし、計らずも自我に目覚めることもあるかもしれません」
最初から、先生がいかにも悪をしでかしたかのような物言いだ。
先生のうろたえが、そちらを見なくても伝わってくるようにさえ感じられる。
ちなみに頭脳労働と交渉担当、なんて思ったのは、もう一人と比べて細身だったからだ。もう一人の二十代らしき人は、背丈が高く身幅もあって筋肉質なのだ。
「失礼。千年の歴史にもない自我に目覚めたホムンクルスが生まれたと聞いて、先走ったことを言ってしまいました。その自我が何故に与えられたものなのか調べに来た私たちが先走ってはいけませんね。ここからは、虚心坦懐にお話をうかがうことにしますので、どうかありのままをお聞かせください。私の名はオレキエッテです」
滑らかに告げて、オレキエッテは半歩後ろに下がって立っている二人を振り返った。
「バルバです」
と頭を下げたのが筋肉質な方。
続いて、十代らしき方が頭を下げる。
「カッペッロです」
「……フェリクスです」
先生も続いて頭を下げたが、どうも舌がもつれているのか、ぎこちない発音だった。
審問官たちは私にも目を向けたが、私には名前がないので、頭を下げるしかなかった。
「よろしくお願いいたします」
何も言わないのも変かと、そう告げたのだが、バルバが低く感嘆の声をもらし、カッペッロは明らかに驚いた顔をしていた。
本来ホムンクルスは、その程度の言動も、自発的には行わないものなのだろう。
私には他のホムンクルスがどんななのかさえ分からないけれど。
「なるほど」
一人だけ表情を変えなかったオレキエッテは、興味深そうに私を見たまま二度うなずいた。
「それでは、私があなたについて話を聞かせていただきましょう。錬金術師殿にはバルバがお話をうかがいます。それでよろしいですか?」
優雅な仕草で指示を出すオレキエッテに、先生は逆らうことも意見を言うこともなく、こくこくとうなずいて机へと向かう。
私とオレキエッテはソファで話すということのようだ。
テーブルを挟んで私とオレキエッテが座ると、カッペッロはオレキエッテの後ろに立った。
ちなみにさらにその後ろで、執事長のコンラートが黙って立っている。
審問官たちが気にしないところを見ると、話はついているのだろう。
「さて、ホムンクルスさん」
「え、はい」
そんな呼ばれ方初めてだ、と戸惑うと、オレキエッテが小さく吹き出した。
どこに吹き出す要素があるのか分からなかったが、すぐに本人が説明してくれた。
「失礼。ホムンクルスが戸惑うなんて、と笑ってしまいました」
私にしてみれば全く失礼なのだが、ホムンクルスがそういうものだと思うと諦めるしかない。
「いえ、構いません」
首を振ると、オレキエッテは笑いを仕舞い込んで、温度のない表情で目を細めた。
あ、これは冗談が通じない相手だ。と私はすぐさま判断した。
機嫌が良いように見えてさえ、絶対に冗談も失敗も許さないタイプに違いない。
「それはありがたい。さて、それではあなたが悪ではなく、神の御業を冒涜する存在ではないと、証明していただきましょう」
無茶なことを言う。
なんてことはもちろん口にしないが、その時私は、オレキエッテの言葉に反応している場合ではなくなっていた。
強烈な不快感が、私を襲っていたからだ。




