先生は緊張しやすい人なんだななんて思ってみました
なるほど審問官がどういったことをするか分からないが、本心を語った方がよいことは確かだろう。
なんて私が考える頃には、いつの間にか時間が過ぎ去って、昼食の時間になっていた。
先生は食事をしながらも他のことも並行して行う派なのだということを、朝食の時には分かっていたが、私は食事は食事として集中しておきたい派だ。
なんてことも本当はないのだけれど、この城で食べる食事は、どれも非常に美味しいので、ながら食いなんてもったいなくて出来ないのだ。
美味しさに集中していたい。
それでも昼食の際には、先生も机を離れて、私が食事をしているソファセットまでやって来た。
「終わったんですか?」
何をやっていたかなど知らなかったが、その何かをしていた手を止めたのだから、区切りはついたのだろうと聞いてみる。
「ようやくね」
先生はいかにも疲れたというように私の向かいに腰掛けると、メイド長に頼んで淹れてもらったコーヒーを手に取った。
手っ取り早く眠気を追い払うには、ハーブティーよりも紅茶よりもコーヒーというのは分からないではない。
だがコーヒーを飲んでいる先生の表情は、疲れが胃に来ているのではないかという気がするものだ。コーヒーを飲むより寝たらどうかと言いたいが、審問官が帰るまではそうもいかない立場なのが辛いところだ。
そういえば今朝は、私が下りて来た時には机で何かしていたので、先生が言う『ようやく』は、私が想像するより長いのかもしれない。
「何してたんです?」
「あー……、審問官に説明する時の文章をね……」
それはお疲れさまでしたと思う前に、それはさぞや詳細に書いてあるのだろうなあと思った私である。
それを読めば昨日私が受けた説明よりも、より詳しいことが書いてあるのかもしれない。
が、まあいいのだ。
とりあえず、私が知りたい大まかなことは分かっているので、いつまでもこだわるのも 馬鹿らしいだろう。
それに食後少し休憩した頃には、審問官がやってくるわけだし、先生をからかいつつその書類とやらを見ている暇もない。
あとはもう、本当に、審問官を迎え入れるだけだ。
そうこうしていると、食器を下げに来たメイド長が、審問官の城に着いたことを知らせてくれた。
「クラウス様がお会いになられた後に、コンラートがお連れしますので、このままお待ちください」
そのことを、私は少しだけ気にした。
私と先生が審問官と会うのは、領主とは別というわけだ。
別々に会うことの意味を、どう取るべきなのだろうか。
もっとも、私は領主に会ったことがないので、この機会に顔を合わすというのも、いいのか悪いのかよく分からないことだ。変なタイミングで会わない方がいい気もするし、領主というおそらくはこの城内で最も頼るべき相手には頼れないと取ることも出来る。
どのみち、審問で問題がなければ明日には会う相手なのだけれど。
メイド長が立ち去った後で、私は先生に聞いてみることにした。
「領主様がここに来ないのって、不利だと思いますか? 有利だと思いますか?」
もちろん、審問官に対して、だ。
疲れているからか、いよいよ審問官を迎えるにあたって落ち着かないからか、先生は腕組みした体を揺らしながら私をちらりと見た。
「どうかな」
言葉を切って少し考えてから、続きが口にされる。
「不利なのは、領主様がどんな話をした後かって分からないことだよ。有利かどうかは、ちょっとよく分からないな」
まあ、それはそうだ。
そうだけれど、先生は明らかに今、会話をしている場合ではないという態度を取った。
会話をしている方が、待っている間の緊張や不安も和らぐと思ったのだが、失敗だったようだ。
仕方がない。
案外落ち着いているつもりの私と、明らかに落ち着いていない先生二人が黙り込んだ部屋は気まずかったが、小一時間ほど経った頃、扉をノックする音が響いた。




