審問官という言葉にさらされることになるなんて思ってもいませんでした
お昼ご飯を食べて、昼間にお風呂。
これは眠くなる。
先生の研究室に私を送り届けた執事長は、すぐに立ち去った。
先生は戻ってはいない。
これは昼寝をしてしまってもいいんじゃないのかな、なんて思いつつも、読みかけていた本も気になってしまう。
出来ればもう少し魔術の知識を仕入れておきたい。
ふむ、と室内を見回して、しばらく考える。
ような仕草をとってみてはいたものの、具体的に何か考えていたわけではない。
もう一度ふむ、とうなずいた後、ソファに寝転んで本を広げた。
この体のサイズならソファにすっぽり収まっていい。
そしてうっかり眠っても大丈夫、眠らなければ知識を増やせる。
いい考えだ。
そんな風に午後を過ごしていれば、先生が戻って来て、夕食の時間となるのもあっという間だった。
戻って来た先生は、何がどうしたのか、少しお疲れだった。
家庭教師というのもそれはそれで疲れるものなのかと、ソファにどさりと座り込んだ先生にお茶を淹れてあげることにする。
手っ取り早く用意を整えて戻ると、先生は座る自分の隣をポンポンと叩いた。
隣に座れということか。まあ、疲れているみたいなので、座ってあげてもいいだろう。
「お疲れですか? お茶をどうぞ」
カップを前に置いて隣に座ると、先生は頬杖をついてちらりと私を見る。
なんだろう、と首をかしげると、そのままじっと視線を向けられ続けた。
「……なんです?」
これはこちらが話振らなくては進まない話だろうか。それとも、私に関わる話なのか。どちらでもいいのだけれど、じっと見続けられるというのはあまりいい気分ではないので、仕方がないので聞いてみた。
先生はさらにしばらく私の顔を見て、大きく息を吐くと、ようやく言葉を口にした。
「ねえ、膝乗ってくれる?」
疲れを帯びた真剣な顔をして言うことがそれか。
つい思ったことが表情に出てしまいそうだったので、大きく息を吸い込んだところで一つ気が付く。
そういえば、先生が戻ってから、フェロモンのことを忘れていた。
執事長と行動したこともあって、フェロモンを抑えていたのだが、今もそのままだ。
これはフェロモンを抑えた状態で断ると、先生がどう反応するのか、午前中の状態と比較するいい機会だろうか。
なんてことを思ったものの、改めて目を向けた先生の顔がセクハラしたい顔というよりは、くつろぎを求める顔だったので、断るのも操るのも悪い気がしてきた。
「まあ、乗るだけならいいですけど……」
つい、そう答えてしまう。
「うん、乗って乗って」
少し表情を緩めた先生に、軽い口調で言われると、微妙な気分になってくる。
もっとも、乗るの乗らないのというやり取りがすでに微妙ではある。
よいしょと、先生の膝の上に乗ると、私の頭に先生の顎が乗って両手で抱えられた。
セクハラではなく、ぬいぐるみ扱いのようだ。
癒しのためには、抱えるのにちょうどいいぬいぐるみが用意してあるといいよね。
「家庭教師の仕事ってそんなに疲れるんですか?」
この様子は、決してそうではないだろうと思うのだけれど、他に適当な話題のとっかかりもない。何かあったんですかと聞くにも、自分が原因のような気がすることを、真正面からは聞きにく。
「んー……、いや。そうじゃないんだけど」
案の定、私の問いには先生は首を振る。
「はあ」
ここまで言ったら、だけどどうなのかも言ってくれるだろうと、私は適当な返事で先生の言葉を待った。
「んー……」
唸る先生が私の頭を顎でごりごりとこするので、流石に止めて欲しくて手を伸ばす。その手は先生の顎を止める前に捕まれてしまったが、顎の動きは止まった。
「あのね」
先生が口を開いたところを見ると、言おうかどう言おうか悩んでの動きだったようだ。
話す気になってくれたのなら、まあいい。ということにしておく。
「明日、教会の審問官が君を見に来るから、覚悟、しといて?」
「はあ?」
教会というと、魂の創造を禁じるとかいう存在ではなかっただろうか。
何をどう覚悟したらいいんだと、その後私は先生を問い詰めることになる。




