自分の所有者について聞いてみようと思いましたが
執事長にセットしてもらった髪は、メイド長にしてもらったのよ同様素敵な仕上がりだった。
それから新たに用意してくれていた服。
これもまた素敵。素敵という以外の言葉が浮かばないというか、素敵としかいいようがないというか。
青灰色の半ズボンとベストは、一件地味な用で、光の加減で煌めいて見える。
シャツはフリフリのジャボタイ付き。袖にもフリル付き。
王子様かと言いたくなりながら、満足さに一人心の中で笑う。
声に出して笑わないのは、執事長の耳があるからだ。
そばにいるのがメイド長なら、二人でそろって素晴しさをたたえ合いたい。
ともかく、似合う、写真が撮りたい、と思ういい服だった。きっとメイド長の作なのだろう。一体いつ作ったのかとか、どういうペースで作ってるのかとか、大変気になる。
自分の姿に第三者の視点で満足しながら、先生の研究室まで戻る。
それにしても、先生は私が領主に会うことになるのは三日後と言ってはいたけれど、衣食住を満ち足りさせてもらいながら、三日間全く領主に会わずに過ごしていいものなのだろうか。
私自身が領主に積極的に会いたいのかといえば、そういうわけでもないのだけれど。
「コンラートさん」
歩きながら執事長に話しかける。
ご本人のお言葉に甘えて、名前で呼ばせてもらう。
「なんでございましょう?」
二人並んで前を向いて歩いていても、しっかりと返ってくる返事。王子様かというような服を着た金髪の美少年が、執事である初老の男性と並んで歩いた上に、丁寧な言葉を向けられていると思うと、まったくもって、その光景を映像として見たいところだ。
「領主様がどんな方か、お聞きしたいと思って。聞いてよければですけど」
回廊から見える景色はやはり綺麗だ。一見手入れのされていない庭に見えるのは、足元の草花の多さだろう。
けれど、よく見ればどの場所も歩くのに差し障りはなく、小路や飛び石も草に埋もれてしまうことなく保たれている。
つまり雑草を伸び放題にせず、けれど綺麗に花を咲かせながら邪魔にはさせず、手入れを続けているわけだ。
正直、その手間を考えると、一人二人の庭師で出来ることではない。
そんな手間のかかる庭の維持を、領主自ら指示しているわけではないだろう。それでも、私の身の回りのことに関する手の回しようを見ていると、庭の手入れの指示にも関わっていそうな気だってしてくる。
なんというか、最初に先生やヒルデガルトから聞いて受けていた印象とは、違うタイプの人物なのではないだろうかと思えてくるのだ。
そういう、単にこの体の所有者だからというだけではない関心でもって、私は領主の人となりを尋ねてみたかったのだ。先生やヒルデガルト以外の視点での情報が欲しかったということもある。
執事長は私をちらりと見る仕草をしたけれど、すぐに前に目を向ける。
何を思っているかは、正直よくわからない。
「クラウス様に、ご関心がおありですか」
「まあ、それは」
全くないでいられる関係でもないのだけれど、かといって、この体の所有者ですから、なんて答えもどうかと思って曖昧に答える。
「そうですね」
執事長のうなずきは、私の考えていることを肯定しているかのようだ。
「ですが……。わたくしの口からお伝えすることが、いいかどうかは分かりませんよ?」
その言葉の意味も、分からないではない。
先生やヒルデガルトの言葉から受ける領主の印象と、私個人に対して用意されているものや城内の雰囲気から感じる印象には違いがある。
同じく、執事長から見た領主というものも、また違った人物像であるに違いない。
私が執事長を見上げると、執事長も私に目を向けていた。
多分、望めば執事長から見た領主の人物像を話してくれるつもりなのだろう。
けれど、それがいいかどうかは、先ほど彼が言ったように、分からない。
どのみち、明後日には領主様に会えるのだ。
そう思って私は、引き下がることにした。
「やっぱり、やめておきます」
「それがよろしいでしょう」
うなずいた執事長はほほ笑んでいて、それもまた領主の人柄に繋がるような気がした。