お膝だっこの代わりに足なら乗せてあげてもいいですよ
先生を言いなりにさせることで、私のフェロモンに何が可能か、扱い方が正しいのかと実験を続けるのはいいのだけれど、問題が一つあった。
先生にさせたいことが、特にない。
これはこまったと考えながら、先生が淹れてくれたお茶を飲む。
先生はといえば、当然のような顔をして私の隣で同じくお茶を飲んでいる。
ちなみに先生が淹れてくれたのはバラのハーブティーだ。
何を思ってこれを選んだのか、聞きたいような、聞きたくないような気がするのは何故だろう。
香りはとても素晴らしいので、あえて先生の意図には触れないでいてもいいか。
それにしても、私ももう二回目にしている厨房のハーブ棚だけれど、ずいぶんたくさんの種類がそろえてある。
先生は一見ハーブに興味があるような感じがしないのに、不思議だ。
もちろん、雰囲気が印象で飲食の好みが決まるわけではないのだけれど。
「先生はどうしてハーブやお茶をあんなにそろえているんですか?」
いわゆるハーブだけではなく、お茶の種類もこれまたたくさんあるのだ。探せばコーヒーだって出て来そうな気がする。
「どうしてって、そりゃ、職業柄というか。あと気分転換にもよく飲むけど」
「職業柄、ですか」
はあ、とうなずきながら、これは知識を探れば分かることかと自分の中を振り返る。
が、聞いた方が早いことでもある。
「錬金術師って、すみません、どこまでが錬金術なんですか?」
そう問うと、ふはっ、と笑いが噴きこぼされた。
私の知っている錬金術は、金を作ることを目的とした実験を繰り返し、科学を発展させることになったものだ。
しかもそう認識しているからといって、詳細を知ってなどはいない。
まして、魔術の存在する世界での錬金術の正確な内容など知るはずもない。
私が笑われたことに対しての不満を顔に出すと、先生は悪い、と手を振った。
「ごめんごめん、そういうことはなかなか聞かれないからね」
「はあ」
あまり聞かれないことを聞かれたら、笑うのだろうか。そんなことはないと思うのだけれど。
「多分、聞く相手によって返ってくる答えは違うしね」
どういうことかと自分の知識に触れながら聞いていると、少しずつ意味が分かってきた。
つまり、得意分野の違いがあるわけだ。
「僕は、割と多分野の知識を持っているけど、中にはかなり狭い分野の知識だけで錬金術師を名乗る奴もいるんだ。僕の場合、ハーブも扱う錬金術師ってわけ。むしろ薬草全般扱うんだけどね」
先生についてはいいが、錬金術の定義については分かるような、分からないような、だ。
「それにしたって、共通点とか、必要最低限とか、何かあるんじゃないですか?」
「定義かあ」
先生が腕を組む。
「あえて言葉にしろと言われたら、仕組みを解き明かして、仕組みを作り上げることかなあ」
しばらく考えて出された答えは、ずいぶん幅広い答えだった。
やはり、分かるような、分からないような、だ。
まあいい、と思うことにしておく。
「ところで、休憩ついでにちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」
組んでいた腕をほどいて、先生がにっこりと私に笑顔を向ける。
少し嫌な予感はするが、そういえば先ほど、多少のセクハラまでは大目にみてやろうと思ったところだった。
「なんでしょう?」
一応笑顔で確かめてみる。
「膝の上に乗ってもらってもいいかな」
尋ねる、という形を取りながらも、先生は準備万端さあ来いとばかりに私に向かって両腕を広げている。
鼻息が荒い。
まあそれくらいならと思うところだが、私は実験中だったことを思い出した。
「お昼まで先生が魔力と魔術の関係、魔女に関してお話してくれるのなら、足くらいは乗せてあげてもいいですよ?」
譲歩してしまうのが私の甘いところだと思う。
それでも先生はくじけなかった。
「あ、足かあ。触ってもいい?」
「ダメです」
これで本当に触られずにすんだところを見ると、それなりに私の言うことを聞いてくれていると思うのだけれど、どうだろう?




