先生はお膝抱っこをご所望ですか
美味しい料理だったが、今一つ味を覚えていられない朝食が終わった。
残念だけれど、これは昼食に期待をしてしまおう。
いつもは使用人用の食堂で先生も食事をしているのだそうだ。
けれど私がいる関係でメイド長が三食運び込んでくれる予定らしい。
「食堂で食べるいつもの食事よりちょっといい気がする……」
先生がそんなことを呟いていたが、本当のところどうなのか私には分からないのでまあい。
食器はメイド長が片付けるし、下手に触っては彼女の仕事の邪魔になると言われたので、テーブルの上に食器をそのままにして、私は私のために時間を使うことにした。
知りたいことがたくさんある。
昨日本を読みながら自分の知識を確認していたわけだが、これが本当に大変だった。
意識が触れたことがない知識を探さなくてはいけない。つまり、どこに何があるか分からない状態で、大図書館の蔵書を探すようなものだ。
知っているはずか、知らないはずかくらいのことなら、直感的に分かるのだけれど、それ以上となると、知識に触れる引っかかりがない。
何かを見て関連するものを連鎖的に思い出すことがあるけれど、その連鎖が全くないのだ。
私の中にある知識は、本当にただただ純粋に情報としてであって、私自身が知っているとは言い難い。
もっとも私が私の知識として一度認識してしまうと、その知識に関してはかなりスムーズに触れることが出来るようなのだ。
今のところ私がはっきり理解しているのは、魔女のハーブティーの淹れ方とホムンクルスに関わる知識くらいだ。
それでは、この体で本来可能なことには、全然足りない。
まずは魔力の使い方くらいは知っておきたいと、先生にそう告げた。
「じゃあ、とりあえず、この本とこの本かな。多分読みだしたら、分かりやすいと思うよ」
結局渡されるのは本なのかと思ったが、まあいい。
もともと、何か実践が出来ると思って与えられた知識でもないのだろうし。
それならということで、私はそのままソファに居座って本を読むことにしたのだが。
「……そこで読むの?」
先生がそんなことを言うので、ダメなのかと膝に置いた本から顔を上げて目を向けた。
「ええ……。ダメですか?」
ここがダメだと、あとは寝室のベッドくらいしか座っていられるところがないのだけれど。
自分の机へと移動していた先生は、何かをごまかしたそうに笑顔を浮かべて、目を逸らす。
「いやあ、ダメじゃないけど。こう、つい、気になるっていうかね?」
「はあ……」
私のうなずきは適当だ。
つまりあれですか。むらむらするとかそういうことですか。
私が読書に勤しもうとするところでむらむらされても困る。そしてここは元々先生の部屋。
ということは、私が移動するしかないのか。
「じゃあ、寝室で読んでますね」
「え?」
ん? 何故残念そうな声が上がるのか、理解出来ない。
しかも振り返ると本当に残念そうな顔をしていた。
「……先生の気を散らしては申し訳ないと思ったんですけど?」
「え、ああ、いやあ、それはそれで潤いに欠ける気がして」
どうしろというのか。と、ついつい不審な目を向けてしまった。
が、先生は意外と神経が太い。
「ああ、そいういう表情もいいよねえ」
何故だか、うふうふと気持ち悪い感じに笑い出す。
そういう表情がどういう表情か自分で確認できないのが残念だ。
「まあ、どちらでも私はいいんですけど。……先生には少し、『ぼく』に慣れてもらった方がいいですよね?」
でなければ一々やりとりが滞る。
「なるべく静かに本を読むだけにしますから、先生もぼくに構わず、先生のお仕事をどうぞ」
部屋を移るのは取りやめにして、引き続きソファで本を読むことにした。
先生は何を期待したのか残念そうにちらちらこちらを見ていたが、もう気にしない。
メイド長が食器を下げにやって来た時には、私の隣で素早く姿勢を正していた。理由はお察しあれ、だ。




