生後二日目のホムンクルスに何がしたいと聞かれても困ります
「そんなこと言われると、湯上りの上気した肌を晒しながら先生に迫りたくなりますね」
先生の私に対する言い様が酷いものだから、ついポロリとそんなことを言ってしまった。
最早私の先生に対するセクハラは、嫌がらせの域なのではあるまいか、なんて思ってしまう。
もっとも、いつ先生の我慢が限界に達するかと思うと、そうそう過激なことをしたくもないのだけれど。
案の定、先生は頭を抱えて首を振る。
「ほんと、やめてくれ、そういうの……」
先生がむらむらするなんて言うからなのだが、湯上りの美少年に迫られると自分でも鼻血くらい出そうだと思ったので、先生のせいだと言い返すのは止めておいた。
そんな風に私が遠慮をしておいたというのに、先生の言葉は続いた。
「君がそんなだから、本当のところ何がしたいんだって思うんだよ?」
「……本当のところ、ですか」
先生の言葉を繰り返して問い返したのは、どういう意味で言ったことなのか分からなかったからだ。
本当のところも何も、結果を望んでしていることではないのだけれど。
「そう、そうだよ。君はまるで、会う人会う人全て誘惑したいように見えるけど、何がしたいんだ?」
つい、しばらく、意識が空白になったまま先生を眺めてしまった。
見つめたのではない。眺めただけだ。
誘惑は、まあ、してみたいかもしれない。
私にとって、誘惑『出来る』というのは新鮮なのだ。相手の反応も、つい見たくなる。
けれどそれは、このフェロモン漂わせること可能な美少年の体を持っているからこそのことであって、本来というか以前の私の性質ではない。
それに、何がしたいかと言われても、目の前の結果一つ一つはともかく、その先の結果を積み上げたさらに結果、なんてものは何も想定してもいない。
今の私にとって想像出来る未来なんてものは、領主様と自由恋愛の結果としてそれなりの関係を築くか、それを拒否されて領主様の人形になるのかの二択程度だ。
そういう意味では、その場その場で面白いと思うことに意識を向けてはいても、本当に私がしたいと思っていることなんてないともいえる。
仕方がないので私は肩をすくめて見せた。
「何も」
「はあ?」
先生が理解出来ないとばかりに眉をひそめる。
この人、私がどういう存在か忘れているんじゃないだろうか。
「あえて言うなら、人形ではなく一人の人間扱いをされるのが当面の目標ですけど、目覚めて一日が経ってもいないぼくの行動に、目的があると思いますか?」
先生は再び頭を抱えた。
「……そうか……」
盛大な溜息とともにこぼれる呟き。
「そりゃそうだ。悪かったよ、見た目以上の年齢を重ねているような口をきくから、つい何か思惑があるんじゃないかっていう気になるんだよな……」
「まあ、一回分の人生経験の記憶がありますから」
目だけ向ける先生に答えると、先生は頭を上げた。
「……君、本当にただの人間だったわけ?」
「記憶ではどうですけど。まだ淫魔だと疑ってるわけですか?」
昨日言われたことを思い出して聞き返すと、先生は大きく息を吸い込んだ。
「まあね。別に淫魔じゃなくてもいいけど、何か目的があってその体を奪った精神体だと考えることだって出来るだろう?」
目的ねえ。そんなものがあるなら、さっさとこの体に持たされた機能を掌握して、城から離れているのではないだろうか。
生憎私にはそんなものはないし、この城を離れて一人で生きていくには、困難が多いだろうことくらい想像がつく。
誰の目も奪う、十才そこらの美少年が、住まいもなくふらふら生きていくのは厳しいだろう。職業に出来そうなものなら思いつくが、お金だって持っていない。
だったら、人形扱いの恐れありとはいえ、ここの領主様に保護してもらう立場を持つ方がマシなはずだ。




