夢の中では本来の目的通りのホムンクルスが、あれ、私だ?
夢を見た。
それを夢だと理解したのは、目の前の出来事に何の干渉もし得なかったからだ。
声をかけることは出来ず、手を伸ばすことも出来ず、近寄ることも出来ない。
夢か、と思って他に目を移せば、何もない。
あるのは、目の前の、それらだけ。
そして目の前にあるのは、二人。
片方は、ふわふわのくせに艶を持って煌めく髪と、トルマリンのような瞳の美しくもあれば可愛らしくもある少年。
私が鏡の中に、『私』として見た姿だ。
その少年を、もう一人が組み敷いている。
まあつまり、いやらしい夢だ。淫夢。
ちなみに少年を組み敷くもう一人については、誰ということもなく、成人男性としてしか認識出来ない。
そんな光景を、私はただぼんやりと眺めていた。
そういうのがお好きだったんじゃないんですかと聞かれれば、嫌いではないんですけどと言葉尻を濁して答えたことだろう。
好きではあったんです。
自分がホムンクルスといえど美少年と知って、何度第三者の立場でそれを見たかったと思ったことか分からないし、今も思っている。
けれど目の前の光景は何の感慨も抱かせてはくれなかった。
別にそれが、今は自分の姿と同じものだから、というわけではない。未だに本当に自分の姿かという程度の認識のもので、正直『美少年だ、美少年が目の前にいる夢だ、やったあ!』の気持ちの方が強い。
ただ、いやらしい夢としては、ひどくつまらない。
少年の瞳は開きながら何も見ず、声は誰を呼ぶこともなく、意思が誰かを求めることもない。
快感がなければ苦痛もない。
愛情もなければ苦痛もない。
ただされるがままなのだ。
なるほどつまり、これが人形ということかと理解した。
人形がお好きな方にはいいのかもしれないけれど。
その場合呼吸をして脈のある人形が受け入れられるかどうかが分からないが。
とりあえず私はお人形ではない方がいいなあ。
といっても別に、実在少年をどうこうしようというわけではなくて、ただ単に空想の種としての好みなのだけれど。
どうして私がこの体で目覚めたかなんて分からないけれど、そうでなかったら、この体は確実に、目の前の光景のような扱いだったのだろう。
それだけはよく分かる。
『それはよかった』
私の納得に応じて、声らしきものが響いた。
らしきもの、というのは、音として耳から聞こえた感じがしなかったからだ。
私という思考に、私ではない思考が入って来た感じという方が近い。
私はその声らしきものの主を探そうとしたけれど、それらしい姿は見えなかった。
まあ、夢だから仕方がない。
声はさらに語りかけてくる。
『ところで、目覚めてよかった? それともよくない?』
引き続き声の主を探しながら、私は首をひねる。
いいのか悪いのか、なんて、生まれて来てよかったか悪かったか、みたいな質問だ。
「さあ、今のところ、それなりに過ごしているけど、まだ一日も過ぎていないし」
『それはそうか』
声が笑う。
聞いたこともない笑い声だし、感じたことのない気配だ。
『でも、もし目覚めていなければ、ああだったことは間違いないからねえ』
声が示しているのは、組み敷かれている少年の体であり私の体であるもの。
ふむ、とうなずきはしたが、目覚めていない場合は私の体ではないのではないだろうか。
『本当にそうかな?』
違うのだろうか? よく分からない。
私の体であるホムンクルスには、私の分の魂が宿っているために、体重が増えていた。
だから、私が目覚めた。
私が目覚めなかったのなら、そこに魂は宿っていなかったのではないのだろうか。
『確かめようがないね』
それはそうだ。
それはそうなのだけれど、どういうことなんだ。
考えがまとまらなくなってきたところで、私は夢から覚めた。
カーテンのない窓からは、昇ったばかりの朝日がまぶしく輝いて見えていた。




