早くわが身の設計確認したいものです
メイド長の運んで来てくれた料理は、どれも美味しいものだった。
ハーブティーにしろ、この料理にしろ、食生活が豊かなのはいいことだ。
満足している私に、先生は何やらぶつぶつとぼやき続けているが、あまり気にするつもりはない。
「淫魔じゃないにしても、君、前世は妖婦とかじゃなかったの?」
いや、本当に気にするつもりはなかったのだけれど、ついその一言に皿から顔を上げて先生を睨んだ。
妖婦って、私は前世で男性をたぶらかしたことなんか、一度もないのだけれど。
むしろ縁の薄い方だった。
だから今、私を見て目を開き頬を染め、血圧を上げている人たちを見るのが楽しい、というのはあるが。
そう考えると、前世が妖婦なのではなく、今世が魔性の美少年なのだ。
魔性の美少年。
いい響きだ。
大体そんな風に私を作ったのは、先生だろうに。
その先生はといえば、私に睨まれて何故か少しうっとりしている。
美少年に睨まれるのがご褒美なのは分かるけれど、その状態に陥っている人をどう扱うのがいいのか私には分からないので、とりあえず放置する。
塊肉は塩コショウが効いていて美味しいが、何の肉かはよく分からない。
固いパンは、スープに浸して食べるといい味だった。
「ワインが飲みたいですねえ」
何となく、思ったことがポロリと口を出た。
出来れば赤が飲みたい気分だ。
ワインの基本的な知識が頭を過るので、飲もうと思えば飲めるのだろう。
生憎このテーブルの上には乗っていないが。
「君、酒飲むの?」
先生が微妙な顔で聞いてきた。
「先生は飲まないんですか?」
「いや……」
反応がてっきり飲めない人のもののように感じられたので聞いたのだが、そういうわけではなかったようだ。
では何かと首をひねってみて、思い浮かんだのは飲酒年齢だが、そういった法律がこの世界にあるようではない。
また明文化されていないモラルというヤツだろうか。
「じゃあ、子どもの姿でお酒を飲むとよろしくない?」
それも先生は首を振った。
だとすると理由が分からない。が、先生はすぐに遠い目をして、微妙な顔をした理由を呟いてくれた。
「酒まで加わると、退廃度が上がるっていうか、もう、大変だよね。少年に給仕させたい層の気持ちが分かるっていうかさ……」
ああ、そういうことですか。
先生の表情は、己の欲望との戦いだったらしい。
この場にワインもその他の酒もなくてよかったかもしれない。
まあ、別に酒の給仕も酔っ払いの相手も、好んでではないものの、やらないことはないのだが。
でもそれよりは自分が飲む方が好きだ。特にワインが。
なんてことは、ついつい力強く言いたくなるのだけれど、今の見た目を考えるとあまり言わない方がいいのだろう。
見た目年齢としても、この体を酔わせたい相手がいるかもしれないことにしてもだ。
とりあえず先生の前では酔いたくないな。
領主様が楽しくお酒をご一緒出来る人だといいんだけど、などと考えながら、私は先生に尋ねた。
「夕食の後は、どう過ごすものなんです?」
見たところテレビやインターネットなんてもののない場所で、明かりはランプくらいとなれば、眠りにつくのも早そうだ。
先生の答えも、その予想から外れるものではなかった。
「ん? 僕は自分の研究をまとめたりもするけど、君は好きに過ごしていいよ。寝たかったら寝てくれたらいいし、寝室も空いている部屋があるから、あとで案内するよ」
つまりすることっていうと、寝ることなわけだ。
それにしても気軽に空いている部屋と口にするということは、この建物が丸々先生に与えられているということなのだろうか。
あながち、名高い錬金術師というのは、皮肉ではないのかもしれない。
「分かりました。じゃあ、その時に、この体に関する設計を書いたものがあれば、貸してください」
先生は、そういえばそうだね、と笑った。
私としてはいい加減焦れていたので、続く『明日、明るくなってからでもいいんじゃない?』という言葉には、にっこりと反対の意を示しておいた。




