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カテキョ錬金術師の独り言3

 正直なところ、人形と人間の区別なんて容易だと考えていた。

 一方は生きていて、もう一方は生きていない。ほら簡単だ。

 では、生きていて自我がないものと、生きていて自我のあるものの違いはなんだろう。

 そんなことは、考えたことはなかった。

 意識のあるなしとは、また違う。

 けれど僕にとっては、この自我のあるなしの違いは、そのまま人形と人間の区別程度の違いだと思っていた。

 そう思っていたのは、僕が育成したホムンクルスに自我があることが発覚するまでだったけれど。


 では自我のあるホムンクルスと自我のないホムンクルスは、どう違うのか。

 どうもこうも、全然違う。

 人形と人間の違いくらい、違う。

 自分で考え、自分で判断し、自分で動くことのすごさを、このホムンクルスが目覚めたことで、僕は初めて知った。


 本来ホムンクルスには、自我は生じない。

 辞書のような知識を詰め込み、質問に答えることが出来るようにしても、その答えは辞書以上のものにはならない。

 経験や、他の知識との関連づけで、より深い理解を可能にしたり新しい視点を獲得することの出来る人間とは違う。

 生きてはいるが、生きているだけ。

 確かに、心臓が脈打ち、呼吸をし、生体活動を行っているけれど、生体機能を持つ人形とみるのが正しい。

 というのが、僕を含む錬金術師たちの見解だ。


 僕は自分でホムンクルスを育成したのは初めてだったが、見たことなら、これまで何回もある。

 金持ちが、様々な理由から、珍しい人形を求めるからだ。

 要望に応じられる錬金術師は、報酬が目的だったり、ホムンクルスの設計と育成自体が興味のあることだったりと、それぞれの理由で金持ちの依頼を受ける。

 量産は出来ないが、錬金術師からすると、物凄く珍しいというものではない。


 だから、ホムンクルスは生きた人形だと、理論だけでなく経験としても知っていた。


 なのにだ。

 どういうわけか、僕が育成したホムンクルスには、自我が芽生えた。しかもホムンクルス以前の記憶もあるという。

 正直ホムンクルスの育成は、教会の要警戒対象なので、自我があるということにはあり得ないことと合わせて物凄く慌てた。

 自我がなければ、人形を作っているとみなしてくれるものの、自我があるのであれば色々と面倒なのだ。

 教会によると、自我があるということは、つまり魂があるということで、魂があるということは、神の御業の領域であり人間の不可侵領域であるということらしい。


 幸い、ホムンクルスとして目覚める前の記憶があるのなら、僕が作り出したものではないと言い訳出来るので、それはよかったのだ。

 けれど、僕は改めて、自我があることのすごさを体感してしまった。


 このホムンクルスを設計している時は、領主様の要望と用途に合わせた設計と、どうせ滅多に作れないものを作るのだから僕のつぎ込めるものを全てつぎ込もういう個人的な趣味に走った。とはいえ、僕にとっては、ちょっと手の込んだ人形を作っている程度のつもりだったのだ。


 それがだ。結果として僕が育ててしまったのは、多彩な表情を見せ、意志ある言葉を連ねる、美しい姿を持つ『少年』だったのだ。

 しかも本人が言うように、中身は大人らしく、それなりの落ち着きと自分の使いどころの理解がある。

 もしこんな少年がそこらにいるとしたら、それはもうすでに、魔性の少年として名高いに違いない。


 そして、もし、ホムンクルスがほいほい自我を持つようになったら、世の中は乱れるだろう。

 育成する錬金術師の設計によるとはいえ、容姿が選べ、年齢が選べ、知識や能力も自由に盛り込むことが出来る。

 量産が出来ないのが救いだが、権力者を陥落することも出来れば、誰よりも優れた指導者を産みだすことも出来るだろう。


 だから、このホムンクルスに自我が目覚めたという事実は、慎重に扱わなくてはいけない。

 幸いなのは、どうしてそんなことになったのか、僕自身が説明出来ないことだろうか。だって、設計と育成は、これまでの伝統的な、そして確立された方法で行ったのだ。

 僕に説明出来なければ、他の錬金術師はただホムンクルスを作ることでしかこの再現を行えない。けれど自分の資金でホムンクルスを作れる錬金術師がいるとは思えない。


 もっとも、本人は本人で、そういったことを説明してやれば、自分でどうにかしていきそうな程度の判断力がある。

 領主様への態度を、状況を受け入れつつ自分の意思を反映したものにしていこうとしているのが面白い。


 もし領主様がこのホムンクルスの言うことを受け入れて、真っ当に口説くことで彼を手に入れようとするのなら、僕にもチャンスがあるかもなんて思っている。

 彼のおかげで考えなくちゃいけないことや、悩みがそこそこ増えたのだけれど、一番の悩みは、本来スレンダー秘書タイプが好みだった僕が、こうして彼の太ももを撫でたがっていることだと思う。

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