夢なら目が覚めるんじゃないかと思っていました
うす暗い部屋の中、水槽の中に浮かんでいる少年の体。
想像するのはなかなか楽しいのだけれど、自分の視点がその体の中にあってはシチュエーションを楽しむことは出来ない。
なんて残念な夢だろうと、溜息を吐きたくなった。
けれど吐き出した息が音を立てることはなかった。
それはそうだ。私は液体の中に浮かんでいる。
どうやら肺の中まで液体が満ちているらしい。
不思議なことだが、夢ならではといったところか。
思考を具体化するほど夢からの目覚めに近くなるからと、一度は止めておいた考えを再び始めたのは、そろそろ目を覚ましてもいいのではないかと思ったからだ。
いかに心躍るシチュエーションらしい夢とはいえ、進展もなく、一番美味しい場面を見れないのでは、飽きてくる。
ほら、こんなことまで考えているんだから、そろそろ起きようよ、私。
なんて思って目を閉じてみたが、なかなか目は覚めなかった。
こぽりこぽりと、時折足元から上がって来る気泡の音が聞こえ続けている。
こんなに『起きよう』と思って目が覚めないことも珍しい。
ふわふわと水槽の中で浮かんでいる体を感じながら、この夢を見る前はどうしていたんだっけと思い出してみることにした。
けれど今一つはっきりしない。
なんとなく、随分長く眠っていたような気がするのだけれど。
おや、と首をひねった。
そう、随分長く眠っていた気がするのだ。
それは、今こうしていることが『目覚めている』のだという感覚を強める。
段々と、もしやあっちの方が夢だったのではないかという気がしてくる。
いやいや。
私はあわてて首を振った。
そんなはずがない。
私は長年独身ながらもそれなりに稼ぎもあって、稼ぎを趣味に使いつつも両親の老後の世話もし、見送り、それから。
それから。
その続きを生きるべく、目を開く。
私自身の目を。
けれどその目には、先ほどと変わらず、水槽越しの薄暗い部屋が映るだけだった。
これは、夢ではないのかも。
自分の考えに、背筋がしんと冷えた気がした。