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カテキョ錬金術師の独り言2

 年頃のヒルデガルトにとって、叔父の好みと領主としての態度を混同しないでおくことは難しいかもしれない。

 お年頃ゆえの潔癖さ。

 おそらく、彼女が今口にしようかどうしようか迷っているのも、それ故だろう。

 伴侶も持たず、遊びもせず、ある意味本来は自分がやらなくてもよかった仕事を懸命に果たしているのだから、許してあげればいいと思うんだけどね。

 僕が作っている『お人形』のことくらい。


「ねえ、先生」

 やはり言おうと心に決めたのだろう、ヒルデガルトが両手を握りしめて僕を見る。

「その、叔父様に言われれて、作ってるのよね?」

 何をとは言わなかったが、それも知っているはずだ。

 けれど、夜伽も可能な生きたお人形に出来るホムンクルス、なんてことを口にするのは、ヒルデガルトにはためらわれたのだろう。

 僕だって、ちょっとためらう。

 

 その、ためらうものを作ることを引き受けたのは、領主様からの依頼だっただけではない。伴侶も恋人も作らず、かといって適当な好みの相手を城に招くなんてことは出来ない領主様を、同じ男として慰めて上げたかったというのが理由の一つ。そして、ホムンクルスというパトロンがいなくては到底作れない値の張るものを作ってみたかったという、自分の本分にしたがったというのがもう一つの理由だ。


 僕の本分は錬金術師で、多くの学問分野に通じているのは、おまけのようなものだ。

 ホムンクルスの作成と育成は高難度、高費用で、さほど多くはいない錬金術師の中でも、実際に行えるものは少ない。僕もこれまで、理論上は僕の知識と技術で可能だろうと踏んでいたけれど、実行に移す機会なんてなかった。

 それを作れと言われたのだから、引き受けない理由などない。

 ちなみに費用については、領主様にとっては少々高いけど手が出せないほでではなかったようだ。

 

「ああ、どこかから聞いたの?」

 何でもないことのように僕は答えた。

 唇を尖らせたところを見ると、ヒルデガルトは領主様から直接聞いたわけではないのかもしれない。

「……執事長と、メイド長が服とか、部屋とか用意してるから、最初はお客様かと思って叔父様に聞いてみたの」

 僕の予想は違ったらしい。勘違いから本人に確認したわけか。 

 領主様周辺の使用人たちに、ホムンクルスの存在を知らせずにおくのは、まず不可能だ。執事長とメイド長くらいには話を通しておいた方がいいと言ったのは僕だけど、ヒルデガルトに教えるかどうかは、実はまだ判断保留にしていたのだ。

 何せ、お年頃だから。


「領主様は、なんて?」

 ヒルデガルトは、さらに唇を尖らせて、床を見つめた。

「男の子のホムンクルスを、そばに置きたいんだって……」

「そっか」

 

 そうか、そうか。そばに置きたいのが、ただの男の子ではなく、ホムンクルスだというのは、言っておいたほうがいいだろう。成人前の子どもの時間を、勉強や技能習得の目的以外に拘束するのは、大人としてはしてはならないこと、なのだし。

 ヒルデガルト向きの説明としても、それくらいがいいだろう。

 もっとも、ヒルデガルトも領主様が男の子をそばに置きたいと言うのがどういうことかは、大体理解しているはずなのだ。

 僕は隠すことなく今度こそヒルデガルトが聞きたかったことに答えた。

「作ってるよ」


 ヒルデガルトは、目を伏せることで僕の言葉を受け止めた。

「……まあ、許してあげたら?」

 返事はやや大げさな溜息。僕への非難も含まれているのだろうか。

 分からないわけではないけれど、僕には領主様の気持ちも分かるので、この場合より上の立場の人間に有利なことを言うのは、許して欲しい。

「好きな物や気に入った物をそばに置いたり、集めたりすることってあるだろう? 人形を集めるのが好きな人もいれば、思い入れのある人形を大事にする人だっているし、自分人形に服を作ってやるような人だっているんだから。そういうものだと思ってあげなよ」

「だって……」

 ぼそりと呟いた言葉は、続かない。

 そんなこと言われても納得は出来ない、といったところだろう。


「ホムンクルスは、生きてはいるけど、自我も意思もないんだ。自由に体が動かせるお人形だと思ってもそう間違いじゃなよ」

 だから人の手による生命の創造、なんてことを教会も許してくれているんだよね。

 もっとも、噂によると、需要があるから、なんていう話もないことはないんだけど、それは一介の錬金術師が触れるような話でもない。

 僕らは世界の可能性の探求者なのだから。

 しばらくうつむいたままだったヒルデガルトは、目だけ僕に向けた。

「じゃあ」  

 ゆっくりと開かれる唇を見て、これはおねだりが来るな、と確信していた。


「本当にそういうものなのか、私にもちゃんと見せてちょうだい」


 まあね。

 同じ城の中で、そのホムンクルスをこれから大事にするであろう領主様と一緒に暮らすわけだし、いざとなるとどんな場面に出くわすか分からないし、心構えくらいあってもいいと僕も思う。

 

「いいよ」

 僕があまりにあっさり答えたからだろう、ヒルデガルトは驚いて顔を上げた。

 もちろん僕の言葉には続きがある。

「そろそろ育成が終わるから、水槽から出す時に領主様が許可してくれたらね」

「……それ、先生が叔父様に言ってくれるの?」

 ヒルデガルトは、少し嫌そうな顔をして僕の意図を確認する。

 そこを確かめるあたり、ちゃんと分かっているんだろう。僕が首を振ることを。

「まさか。君の希望なんだから、君がお伺いを立てるといいよ」

 やっぱり、とでも言いたそうに、ヒルデガルトが溜息を吐く。

 将来の領主様なんだから、これくらいの交渉は自分でしてもらわないとね。


 そんなわけで、ヒルデガルトの希望に対しては、領主様は案外あっさりと許可を出された。

 というのも、自分の希望を叶える交渉は自分で、と言っておきながら、僕からもそっと領主様にお願いしておいたからなんだけど。

 理由は先に上げた通り。突然少年の姿のホムンクルスが、領主様のそばで見かけられるようになるよりは、それを目にする機会が多いヒルデガルトが確かなことを知っておいたほうがいいと思ったから。


 かくして僕とヒルデガルトは、ホムンクルスを水槽から出すその日に、二人そろって地下の実験室に向かったわけだけど。


 そこで僕らは、想定外の出来事にでくわすことになる。

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