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可愛い女の子に好かれるのは悪い気はしませんが

 呼吸が整い、落ち着いた会話が出来るようになった先生とヒルデガルト。

 その二人に、私は何故か挟まれて座っていた。

 フェロモンの影響は、なくなったと思うんだけれど、おかしい。

 顎にでも手を当てて感がる仕草を取りたいところなのだけれど、右手は先生、左手はヒルデガルトに絡めとられていて身動きが出来ない。


「あの、何でお二人に捕まっているんでしょうか」

 先生が、私を自我のあるホムンクルスだと領主に説明することは決まった。だからその詳しい説明内容と、今後の予定もついでにもう少し話しておこう、と言い出したのは、先生だったはずなのだ。

 だが、その先生は、『じゃあ、君はここに座って』なんて言って、私を彼の隣に座らせた。

 そうすると、ヒルデガルトが『先生だけずるい』なんて言って、私を挟んで先生の反対側に座った。

 ついでに腕を取られてこんな様子だ。


 先生は、私の頭にまで腕を回しながら答える。

「ああ、うん。君のせいかな」

「……そうですか」

 私のせいだと言われると、まあ、先ほど倒れ込むほどのフェロモンを纏っておねだりを仕掛けた身としては、言い訳のしようもない。

「そうだよ。なんだかもう、君が領主様用だとか、少年体だとか、もうどうでもよくなった」

 どうでもよくならないでくれと思うが、これも、自分が蒔いた種ということか。あまりにきつくフェロモンを嗅がせると、その影響を途切れさせても一定の効果が続いてしまうのかもしれない。

 先生は、私の頭を引き寄せて髪に鼻先をうずめている。

 もう香らないと思うんだけど。


 一方のヒルデガルトも、私の頭に自分の頭を寄せて寄りかかっている。

 時折もっと、という風にすり寄ってくるが、うっとりと黙ったままだ。

 こんなに影響を及ぼしてしまって、彼女に対しては申し訳なくなるのは、彼女がまだ成人前だと聞いたからだろうか。

 

 与えられた知識に触れてみると、この国での成人は16歳のようだ。

 彼女の雰囲気からすると、14か15といったところなのだろう。そうすると私の体は10歳あたりか。

 次期領主として、子どもを成す気のない叔父からその座を受けぐということは、彼女こそ次の後継者を産み育てることを期待される立場のはずだ。

 正直、成人後もこんなだったらどうしよう、なんてことを考えてしまう。

 いや、でも、いくらなんでも、そんなにまで影響はないはず。ないと思っておきたい。


「あの、そろそろ、離してもらえませんか、腕」

 何度か言ってみたが、二人はその度に首を振った。

「もう少し、もう少し」

「こうしているとすごく気持ちいいんだもの」

 そう言って離れてくれない。


 恐ろしいフェロモン。いや、先生の設計が恐ろしいのか。

 ヒルデガルトは可愛いし、先生も青年としてはどちらかというか可愛いよりの顔立ちでいい言い方をすればスマートなので、こうしてくっつかれていても苦はないのだけれど。

 二人に挟まれて身動きが取れないので、仕方がなくこれが領主相手だったらどうなるのだろうと考えてみる。

 果たしてどんな男性なのだろう。二人からも、領主についてはまだ聞けていない。

 聞いたところで、会ってみなければ人というものは分かりはしないものではあるのだが、どんな人なのだろう。

 

 自分の好みに合わせて少年体のホムンクルスを作らせたことを、ヒルデガルトは最低と言ってはいたが、そこいらの未成年者である少年に手を出さないという点で好ましい気がする。

 空想でなら私も少年を愛でるのにやぶさかではないが、現実となると先生とも話したように、止めてしかるべきことだと思っている。

 だからといって、その領主がたとえばこんな風に私にくっついてきたら。

 髪に鼻先をつっこんできたら。

 万が一受け入れろと迫られたら。

 そう出来るような相手なのだろうか。


 人形としてではなく、自我のある存在として扱ってくれるのならいいとは言ったが、私の好みの問題というものはまだ残っているのだ。


 しばらくそんなことを考えていたが、当然答えなんて出はしなかった。


 そうこうしていると、ヒルデガルトがようやく、私にもたれ掛からせていた頭を上げた。

「落ち着きましたか?」

 そもそも落ち着いていなかったのかどうかもよく分からないが、満足したかと聞くよりはと、そう尋ねる。

「ええ」

 その問いでよかったらしくヒルデガルトはうなずいたが、その手はまだ私の左手に絡んでいて、指先が私の手の甲をつついている。

「ねえ?」

 何か言いたそうにしているその目を見ることで呼びかけに応じた。

 もじもじとしながら私の手を撫でるヒルデガルトの指先がくすぐったい。

「ねえ、さっきみたいなこと、叔父様には、しないでね?」


 ヒルデガルトの眼差しははっきりと潤んでいた。

 それは悲しいというよりはむしろ、きつく抱きしめられ唇を奪われた乙女のようだ。


 それに応えることがどういうことかと問われれば、次期領主としてのヒルデガルトの立場を危うくさせることだからだ、と答えなくてはならないだろう。

 なので私はうなずくことも、答えることも出来ず、ただ曖昧に、困ったような笑顔を見せるだけにした。

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