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ホムンクルスというものの立場についてはこういうことですか

「まあでもほんと、そう、そうなんだよね。この子のことどうするか、ちゃんと考えないといけないんだけど」

 ヒルデガルトに睨まれ、先生はくにゃりと肩を落とす。

 考えないといけないが、どうしたものか思案しても名案にはたどり着かない、といったところだろう。

「もう、もう。ちゃんと考えましょうよ。わたし、この子が叔父様に独り占めされるなんて、我慢できないわ」


 あれ、渡したくなさそうだったのは、そういう理由だったんだ?

 私がティーカップから目を移すと、ヒルデガルトは少し気恥ずかしそうにして見せた。

 身分を考えれば随分表情が豊かな方なのではないだろうか。私にとっては好ましいタイプだけれど。


「まあ、そもそも、自我があるっていう時点で、渡していいかどうか僕も悩むけどね。というより、ほんと、君、何者なんだい?」

 はあ。と声には出さないがうなずいて、どう話したものか少し首を傾げた。

 私の自覚するものを話して理解してもらえるかどうか、考えてみる。が、考えてみたところで、話すしかなさそうではあるのだが。

 だが、その前に。

「私が本来この体に芽生えるはずのない自我だということは、先生の話で理解しているつもりですが。何らかの理由で自然発生的に芽生えた可能性はないんですか?」

 もしそうだとすると、私の私である記憶の説明がますますつかなくなってくる気がするけれど、それはさておいて聞いてみた。

 先生はあっさりと首を振る。

「どうかな。命令に応じるバリエーションは設計で増やすことが出来るし、バリエーションの多い個体は自我があるかのように見えることもある。でも、君のような自発性は、あらかじめ命じられているのでなければ、なかなか、ね」

 そう言って指さしたのは、ティーポットだった。

 先ほどのオレンジピールを選び出したことを言っているのだろう。

 話は続く。

「そもそもホムンクルスの作成、育成が教会に認められているのも、あくまでも生きた体を作るだけで、魂まで生み出すわけじゃないから、だしね」


 そういうものか。と思ったけれど事態は飲みこめた。

 そうやって事態を飲みこめるということが、恐らく設計で組み込まれた知識のせいなのかもしれない。

 ともかく、この体が私だということは、なかなかに大変そうだ。


「そいうわけで、これからのことを考えるにしても、君が何ものか是非聞きたいね。何らかの精神生命体が入り込んでいるのなら、自覚くらいはあるんじゃないかな。むしろ、僕が作ったホムンクルスに魂が発生するより、何者かがのっとっている、っていう方が、教会相手には都合がいいんだけど」

 それはそうか、と一つうなずく。

 それなら、私が自覚している私について話してしまう方がいいのだろう。

「淫魔とか、ですか」

「そう、淫魔とか、精霊とか、まあそういう類」


 そういう類ねえと自分を振り返る私の目の端に、ヒルデガルトの赤い顔が映った。

 淫魔という言葉に反応したのだろう。明るいところで見る栗毛が彩る赤い頬が可愛らしい。ちなみに先生も顔を赤くしている。そもそも自分で持ち出した言葉のくせに。

 淫魔のような美少年も好物だけれど、もちろん生憎というか助かったとそれでよかったと思うべきなのか、元々の『私』は淫魔ではない。


「そういう類かどうかは分かりませんが、全然別の人間の人生一つ分の記憶があるにはあります」

 ヒルデガルトは不思議そうな顔をしていたが、先生は興味深そうな顔を見せた。

「それは、どんな?」

「どんなと言われても……、まあそう大した記憶ではないですよ。女として、そう代わり映えのない、魔力だのなんだのにも縁はなくて、そう、本当に一生分の記憶があります」


 最後の最後は、眠りについたところで終わっている記憶。

 その記憶のどこを探しても、フェロモンで異性同性構わず誘惑したり、魔力を使って美味しいお茶を淹れたりした記憶なんかはない。

 改めて振り返れば、夢にしては、あまりに詳細な長い記憶だ。


「それは、あれかな」

 私が確定させないでおきたかったことを、先生が口にするだろうことは、予想がついた。

 けれど、それを私は止めなかった。

 そろそろ、この体が私であるということを、認める頃合いのような気がしたからだ。


「生まれ変わり、ってやつかな。その体に宿る前の記憶を持ったままの魂が宿ったのなら、経験が行動に反映されることも理解出来るし、僕が魂を創造したんでないんなら、教会も誤魔化せるだろうし」

 なるほど、と先生はそれなりの納得を得たらしい。教会の禁忌に触れないですむのなら、何よりだ。

 私もまあ、それなりに生まれ変わりということを受け入れた。


 けれどヒルデガルトが首を振る。

「そんな、それじゃあ、いっそう、叔父様に渡すなんて出来ないわ! だって、自分のないお人形なら、まだ、その、我慢してあげてもよかったけど、ダメ! 絶対ダメなんだから!」


 彼女は独り占めがどうこうだけでなく、そこも気にしてくれているのだ。

 つまり、大人の人形遊び。

 もっとも彼女がそれをどうイメージしているのかは、分からないけれど。


 先生も、ヒルデガルトの言葉にうなずくような溜息を返した。

「そうなんだよね。教会的にセーフでも、自我がある少年体として見ると、君の立場としては問題があるよね」

 ああ、と今度は声にして嘆く。


「領主様のお人形になれないからですか?」

 個人的にはもちろん、一個人、人格のある人間として、人形遊びの人形役を甘んじて受け入れることは出来ない。

 先生は複雑な顔をしてうなずく。

「まあね。まず一つ目は君が拒否する可能性があるよね」

 それはまあそうだ。うなずく私を見て先生は話を続ける。

「でも、自我があってもなんでも、現在ホムンクルスの扱いについては、『お人形』なんだ。まあ、ちょっと値の張る、ね」

 ああ、と私は飲みこみたくもないものを飲みこまざるを得ずに、うなずいた。

「領主様の判断いかんでは、拒否権はないってことですね」

 先生はこくこくとうなずき、ヒルデガルトが悔しそうに顔を歪める。

 それでもかわいいのだから、素晴らしい。

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