それはそれ、これはこれと言いますか
ヒルデガルトのダンス練習に付き合う。
それがいいのかどうか、本当にいいのかと私が問いたくなる理由は簡単。
ヒルデガルトが私に好意を持ってくれているからだ。
そしてヒルデガルトは、本来の私というホムンクルスの主であるクラウス様の姪。
クラウス様は、本当は私の耳元で囁いたようなどエロいことも望んでホムンクルスである私の体を作らせたはずで、その私が姪とはいえヒルデガルトとダンスを踊っていていいのかという話なわけで。
いや、ダンスもね、ブレイクダンスとかね、ヒップホップとかなら、いいのかなって思うけどもね。
「ふふ、じゃあこれからは、私のダンスのパートナーはルカね」
なんて言っているヒルデガルトの言葉からしても、彼女の身分を考えても、いわゆる社交ダンス、ホールド、抱擁に近いものに違いない。
娯楽でもあり遊戯でもあり、スポーツでもあるだろうけど、広義でいう男女のというかパートナー選びの交流にも用いられるものでもあるわけで。
それは、このヒルデガルトの喜び浮かれっぷりから考えてみても、いいのか本当に。
そもそも、私はちょっと教会からも目をつけられ気味なイレギュラーなホムンクルス、ということを除いても、この世界で生きて行く術を見出せない少年体でもある、という理由でうまいことクラウス様の庇護だけを得ていたいわけで。
つまり、本気でクラウス様とどうこうとか、ヒルデガルトがどうこうとかは、遠慮申し上げたいわけなのだけれど。
と戸惑う私に、クラウス様は表情も変えずに、どうかな、と重ねて聞いてきた。
いいの、か。
ヒルデガルトは私が戸惑っていることに気付いてもいないのか、エレオノーラさんを近くに呼んでダンス練習用の服がいるわ、なんて話し始めている。
エレオノーラさんは、これまたあくまで仕事ですという顔をしながらも、活き活きキラキラしているので、凝った服を用意してしまいそうだ。
しかしこうなると、首を縦に振らないわけにはいかない。
断りようがない。
仕方がなく、と態度に出すわけにはいかない。
コホンと小さく自分の本音を咳払いで誤魔化して、私はうなずいた。
「ダンスは踊ったことがないので、それでヒルデガルト様が構わなければ」
「もう、ヒルダでいいって言ってるのに」
まったく話の流れに関係なく、ヒルデガルトが浮かれた声で言う。
ヒルダでいいのかもしれないけれど、そこはまあ、自分の立ち位置を考えるとこうなるわけで、ヒルデガルトにもご理解いただきたい。
「では決まりだな。ダンスなら気晴らしにも、ちょうどいいだろうし」
「そうよ。叔父様と兵士たちの訓練場に行くなんて、危ないことしなくてもいいじゃない」
それを聞いてクラウス様が苦笑している。
ヒルデガルトの言う危ないは、恐らく剣だの弓だのを扱う場所に近づくことを指しているのだと思うが、一方のクラウス様の苦笑は、別の意味の危ないを思い浮かべているように感じる。
まあ実際、クラウス様が想像しているであろう危険は感じたわけだが。
ただ、あちらはあちらで走ったり、外見がとはいえ同じ年頃の少年と交流出来たり、楽しくもあるので、行きたくないというわけではないのだ。
それをどうするか、とクラウス様をちらりと見ると、視線が合った。
何を察したのか、微笑んで返してくれたクラウス様は、ヒルデガルトの言葉に、そうだとも違うとも返すことはしなかった。
「ダンスの先生には、一人生徒が増えることを私から伝えておくことにしよう。さて、ヒルダ、そろそろ食事にしたいがどうかな」
ヒルデガルトは、クラウス様の言葉にはっとすると、そそくさと椅子に座りなおした。
自分がとてもはしゃぎにはしゃいだ有様を見せていたことに気付いたらしい。
可愛いんだけどね、年相応というか。
それでも、その内女領主になることが決まっている彼女のことだから、そのためにはかなり自分を律していかないといけないのではないだろうか。
余計なお世話ではあるけれど。
ところで、一度食事となると、私もエプロンを外して同じテーブルに着く。
給仕としてはあり得ないことだけれど、正確には給仕とも言い切れない私に、クラウス様もヒルデガルトも食事は同じ席でいいだろうと言った結果だ。
曲がりなりにも役に立つ場面があって、一緒に食事を摂らせてくれて、この扱いには本当に運がよかったと思う。
だからといって、本来の目的にどうぞお使いくださいと言えないのは、当然と思いつつも複雑なところだ。




