ダンスレッスンなんて本当にあるんだと思いました。
エレオノーラさんの用意してくれていた服に着替えて、「仕事」に取り掛かることにする。
少し楽なものとして用意してくれていた服は、それでも立派に給仕らしさを見せる服だった。
動きやすさは抜群で、締め付けている感じは全くない。
基本的にエレオノーラさんの用意してくれる服が、動きにくいなんてことはないのだけれど、見た目のきっちりさ、ゆったりさというものはある程度差がある。
使われている布によるものだったり、ほんのちょっとボタンの位置が違うことによるものだったり。
今着ている服は、給仕らしさを演出しつつ、このままソファでくつろいでいてもいいかもしれない気にさせてくれる。
ズボンは膝まで、袖は短め、リボンタイにベスト。
大変よろしい。
おっと、自分の好みが出てしまった。
それはさておいて、お仕事だ。
給仕、といっても、基本的に料理はコンラートさんがワゴンで食堂まで運んでくるので、私の仕事はそれをクラウス様とヒルデガルトの前に運ぶことだ。
食堂は、領主一家専用の場所。
お客様がある食事の時にはそれようのまた別の部屋があるので、こちらはヒルデガルト曰く、こじんまりとしているとのこと。
テーブルをどう見ても十人は簡単に座れそうなだし、部屋はそんなテーブルがもう幾つか入れられそうなのだけれど、こじんまりとしているのだそうだ。
お茶の時間も、食堂とは別のこれまた広い部屋で過ごしているので、まあ、こじんまりの基準はよく分からない。
それらの基準で行くと、食堂の半分くらいの広さで物と本に溢れている先生の部屋は、なんなのだろうと思うけど、あれはあれで、基準として相応しいわけではないだろう。
ともかくそういう広さなので、席についているのがクラウス様とヒルデガルト二人とはいえ、二人の前に料理が並ぶには、ちょっとした時間が必要でもあるわけだ。
まあ、この二人は多少手順がもたついても、黙って静かに待ってくれているのだけどね。
それだけで、私という存在の扱いを振り返るまでもなく、私は結構いい場所で作られたもんだよなあと思う。
ワゴンに並んだ料理を、二人の注文通りに皿に乗せて、運ぶ。
その時、場合によっては二人の様子を見ながら、ちょっとだけ調味料やハーブでアレンジを加えることもある。
料理を整えてくれる料理人には悪い気もするのだけれど、了解は取ってもらっているのだそうだ。
伝聞なのは、コンラートさんが間に入ってくれているからだ。
一応、『魔女』のやることなら、とそう悪い気はさせていないとのこと。
ヒルデガルトが口にするスープをちょっとだけアレンジしながら、そういえば、と先ほどのお風呂の話を思い出す。
その間に少しばかり手順が滞っていたことを、コンラートさんに見咎められてしまった。
「どうかしましたか?」
掛けられた言葉に、何でもないと慌てて首を振ったが、そのやりとりが今度はクラウス様に気にされてしまったようだ。
「疲れたのではないかな? やはり、もう少し普段から体を動かす機会があった方がいいかな」
朝の訓練について行ったことと、そうなった経緯の運動不足について言われているわけだが、そういうわけではない。
そう返そうとしたところで、ヒルデガルトの言葉に遮られた。
「なにそれ、ルカ、何かしたの?」
クラウス様が説明すると、不思議そうにしていたヒルデガルトの頬がみるみる膨らんでいく。かわいい。
「なによそれ、おじさまだけルカを連れ出すなんてずるいわ。わたしがルカと過ごせていないのに、兵士たちが過ごせているのもおかしいじゃない」
おかしいのか、と首をひねるが、まあ、ヒルデガルトの立場での言い分はわからないでもない。
私をそばに置きたがってくれていることも分かっているので、嬉しくはある一方、自分の立場を考えると微妙なところだけれど。
けれどクラウス様の返答は、ちょっと予想外のものだった。
「なるほど。だったら、ヒルダのダンスの練習に、付き合ってみるか? ルカ」
ヒルデガルトは、目の前のスープも気にせず勢いよく立ち上がって喜んだ。
でもそれ、本当にいいのかというのが、クラウス様の判断に対する私の感想だった。




