温泉のお湯を飲むこともあるとは聞きます
私がハーブの類を使うとその効能が格段にアップする。
それは一応実証済みで、そういった力の持ち主は時々いるらしい。
そういった力を持っている人は、魔女と名付けられている。そうだ。
私の場合、それがはっきりと分かったきっかけは、私の淹れたハーブティーがはっきりと効いたからだ。
だからクラウス様の給仕をしている、という理由でもある。
今のところハーブティーを初めとする飲み物を淹れたり、皿に盛られた料理を運んだりする程度で、はっきりと『薬』であるものを扱ったことはない。
どこからが薬なのかは置いておくとして。
そういえば、教会から来た人たちに聖水とやらをかけられたことがあるけれど、あれは薬の範囲なのだろうか。
考えがそれた。
ともかく、私にはそういった力があるのだけれど、魔女の力は魔力の表れ方の一つらしい。
魔術を成立させるのもその一つ。
他にも幾つか魔力が影響する場合はあるが、それは今はいい。
私の淹れる飲み物は、使ったハーブだったりなんだったりの物の影響を、おそらくは最良最善に発揮させる。
調理に関しても同じ可能性は高い。
とはいえ、何をどう発揮させるかといえば、魔女である個人の資質によるところもあるわけなのだけれど。
お風呂に入って体調がいいのが、私の影響とは。
風呂の湯を飲むわけでもあるまいし、そんなことがありうるのかどうか。
しばらく考えてみたけれど、よくは分からなかった。
単に、クラウス様が遠回しに私を褒めて心証を良くしようとしている可能性だってある。
そして、私にあらかじめ与えられているという知識の中に、魔女の力が入浴に対して発揮されたという話はないみたいだ。
あらかじめ与えられている知識というのも、自分が実際に触れて得たものではないせいか、そういった知識を持っているかどうか確かめる過程が必要なのが少し面倒臭い。
これでも、最初の頃よりは随分早く扱えるようになったとは思う。
あれこれ考えながらとはいえ、実際には服を脱いで、さっと全身を洗って、体を拭いて、までをテンポよくこなしている。
ちなみに、体を拭いて肌着を身に付けるところまでは自分で行っているけれど、その後服を着る段階になるとエレオノーラさんがしてくれる。
執事長であるコンラートさんは、髪を乾かすために魔術の応用なんて真似を見せてくれていたのだけれど、エレオノーラさんも同じことが出来る。
なので、そのために普段の入浴ではバスローブを一度羽織るのだけど、今日はそこの手順は飛ばしている。
それでも肌着を雫で濡らすこともなく、見事に髪を乾かしてくれるのだから、エレオノーラさんも伊達にメイド長ではないわけだ。
もちろん、そこがメイド長になる基準ではないけれど、ある程度人の世話をする立場になると(下位のメイドは基本的には掃除が主のようだ)、こういった技術も必要なのだなと感心する。
「本当は、この時間でもゆっくり浴室をお使いいただきたいのですが、……ルカ様、クラウス様とご一緒になら、浴室も使えますが、いかがですか?」
エレオノーラさんは、これも雑談のつもりなのか、主を思って少しばかり強めの押しを私にかけてきているのか、そんなことを言う。
一緒にねえ。
客観的な他人事としてなら、そこでもう過ちてしまうのも大変よいシチュエーションではないかと思うけれど、これは我が事なのだ。
特に、あんなどエロいことを言われた相手と、そういう仲だというわけでもなく同じ風呂に入るために裸になるのは、ちょっと困る。
私は、一応笑顔のつもりの表情で、いいえ、と首を振る。
「そうですねえ。あれでクラウス様もこの関係をじりじり進めていくのも楽しいようですし、焦らすだけ焦らすというのもいいですねえ」
うふふ、と笑ったエレオノーラさんは、多分本心でそう言っていた。




