魔女の才能と入浴の関係について問われてもすぐには答えられませんでした
「あら、ルカ様、クラウス様の鍛練にお付き合いされるのは、大変でしたか?」
メイド長であるエレオノーラさんの問いかけは、私が多少よろよろと歩いていたせいだろう。
「いえ、連れて行っていただいただけなので、それは、別に」
一応否定しておく私の横で、クラウス様が心なしか機嫌よさそうにしている。
まさか、この人にどエロいことを言われてふらついていますとも言えない。
言うと、エレオノーラさんには、何だか変な誤解をされそうな気もする。
さらに過激な誤解というべきか。
実際にそんな誤解をされたことはないし、少なくとも告げられてはいないのだけれど、この人の言動の端々に、私と似たような趣味を感じるせいで、そう思ってしまうのだ。
作ってくれている服が、クラウス様のツボをおさえながらも、エレオノーラさん自身の趣味だというのも、非常に、私の懸念を増すものでもある。
いや、作ってくれる服は、ルカの容姿に似合っていて、どれも甲乙つけがたく素晴らしいし、私も鏡を眺めるのが楽しくなるし、大変良識的なものでもあるんだけれど。
でも究極的にはこの人、ルカの体には、薄い紗でもかけておきたい、みたいなことを考えている気がする。
気がするだけではあるし、私だってルカが自分でなければ、そうして部屋に囲っておきたい。
鏡を見る時の悩みは、これが自分だと思った瞬間に理性が働いてしまうところだ。
なんてことはさておき、エレオノーラさんと共に入った自室では、新しい着替えが用意されていた。
そう、新しい、着替えだ。
クラウス様について行く前に着ていた、朝起きて着たばかりのあの服ではない。
そして、また見たことがないものだ。
「……これ、夜に用意してあると言っていた服ですか?」
「いえ、それはまた別に。体を動かされた後には少し楽な物がいいかと思って用意させていただいています。それから、あちらに、お湯の用意が」
部屋に入って来た時に気付かなかったのは、『あちら』が衝立の裏だったからだ。
衝立は、この部屋を使いだした翌日に、執事長のコンラートさんが運んで来てくれた。
何かといることになるだろうと。
それが彼個人のためなのか、まあ、他の人にとってもなのか、私自身のためなのか、ちょっとよく分からないけれどこうして役に立ってくれている。
部屋の中でお湯を浴びるというのはちょっとどうか、と思わないでもないが、部屋の造りに問題はないし、浴場まで行くには少し時間が惜しい時にはとても便利だ。
時間の何が問題かというと、ざっと体を洗って拭いて着替えたくらいのところで、クラウス様とその姪であるヒルデガルトが朝食の席に着く、ということ。
クラウス様の給仕係としては、仕事をしなくてわね。
それが、絶対しなくてはいけないことではなくても。役に立たない囲われ者未満を置いておくことに、どこかで不満が出ても困る、なんて打算ももちろんあるけれど。
ま、クラウス様もヒルデガルトも、私が皿を運んだり飲み物の用意をしたりしていると、とても喜んでくれるので、やりがいはある。
本来その仕事をするはずの、メイドや給仕はもちろんいたのだけれど、私がハーブだのなんだのの薬効を引き出す力があるということで、特に不満は持っていないらしい。とはコンラートさんから聞いたことだ。
本当かどうかは私には分からないが、丸く収まっているのなら、それはそれでいい。
「お湯加減はいかがですか?」
服を脱いで、お湯の入った桶に一度体を漬ける。
といっても、座って腰くらいの量だ。
私が座ってもお湯の零れない、最適な量に感心する。
「ちょうどいいですよ、ありがとうございます」
答えながらもささっと汗を洗い流し急ごうとする私に、エレオノーラさんはそう急いでいるわけでもない声で、衝立の向こうから話しかけてきた。
「そういえば」
と言うあたり、世間話だか噂話だかの雰囲気だ。
「最近、クラウス様が言っておられるのですが、浴室を使った後、とてもお身体が軽いとか。これもルカ様の影響でしょうか?」
正確には、伝聞に関する話だったわけだが。
食べ物に関わる力が、入浴にまで関係するのかどうかなんて、ちょっとよく分からない話だった。




