妬いたりなんかはしませんが
他人からつつかれれば、恐らくいい気持ちはしないであろうことを自ら口にしたクラウス様に対する返答は、よく考えてから口することにした。
といっても、黙り込んだのはほんの一瞬だ。
長引かせていい答えでもない。
「彼らがクラウス様を尊敬している様子を見ると、そんな質問をする気にはなりません」
それが偽らざる気持ちだ。
だというのに、クラウス様が私に向ける表情は、なんというか、不服そうだった。
私もつい、どういうことだと不満が顔に浮かぶ。
と、クラウス様が吹き出した。
「はは、いや、悪い。ルカの答えが気に入らなかったわけではないんだ」
「はあ……」
じゃあ何なんだとは言わないまでも、声ににじませてうなずくと、さらに笑われた。
「いや、本当に、本当にだ。私が予想していた答えではなかったけれどね」
「だからといって、笑うことはないかと思いますが……」
せっかく本音を口にしたというのに、笑われるのは心外この上ないし、流石に腹も立つ。
それはクラウス様にも伝わったのだろう、咳ばらいをして笑いを収めると、整えた表情を私に向けて来る。
「うん。確かにそれはその通りだ。悪かったね、ルカ」
「いえ、はい……。いいんですけど」
よい大人に、といっても私もまた大人であったはずなのだけれどそれでも、正面切って謝られるというのは、どう答えたものか戸惑うものだ。
まして、相手は身分もある人間なのだし、と気まずく視線を逸らすと、視界の端でクラウス様が目元を緩める様子が見えた。
「ふむ。他がいることに妬いてくれてもよかったんだが、君が感情を見せるのは、いいものだな」
いい、とは何が。
と首をかしげながら、私は別のことを尋ねていた。
「妬いて欲しかったってことですか?」
「方向性で言えば」
クラウス様は腕を組んで、少しばかり大げさにうなずいている。
あんなピチピチとした少年たちに囲まれることが可能なら、お金を使ってホムンクルスを造らせる必要がないんじゃないかとか、その上予想外に自我を持って教会に目をつけられている私を庇護する必要がないんじゃないかとか、あまつさえ自由恋愛なら構わないだとか言ったことを受け入れる必要はないんじゃないかとか、そういうことで不安になってすがって欲しかったということだろうか。
そんなことを考えた私の表情は、まあ、明らかに不審がっていたことだろう。
クラウス様は小さく苦笑すると、否定するように手を振って見せた。
「妬いて欲しいというのはつまり、多少なりと好意を持ってくれているかどうか、測りたかったという程度のことだがね。試そうとしたわけではなくて、いい機会だと思っただけだが」
「はあ……」
試されたとは思っていない。
あの場所に行ったのは、私が言い出したことなのだし、それで私の態度が気になったのも、後からのことだというのは分かる。
むしろ、すがって欲しかったなんてことが私の空想ですんでよかった。
我ながら、自分がそういう性質だとは全くもって思えないのだから。
「……少なくとも、彼らがクラウス様を尊敬しているように、クラウス様も彼らを大事に育てていることは分かったつもりですし、そういう意味では彼らと自分を比較する気は起きないんですが」
何故なら彼らと私は全くの別物だからだ。
たとえそれが万一建前だったとしても教育を与えられる子どもとしての扱いと、そもそもの存在目的が人形であることと、比べて妬こうというのが間違っている気がする。
が、そこまで言う必要もないだろうと判断した私の言葉を、クラウス様はいい具合に誤解してくれたようだ。
「そうかな」
それはただの相づちだったかもしれないが、私はうなずいて返した。
「そうでなければ、ホムンクルスを造らせようなんて、思わないのでは?」
これはちょっとした確認だ。
先生は、クラウス様が過去に何かしでかしたかのように言っていたが、これからもしでかそうなんていう気のある人間が、値の張るお人形なんて欲するとは思えないのだけれど。
クラウス様は口の端を上げていたが、目は、笑ってはいなかった。




