気が付いたら水槽に少年体として浮かんでいました
こぽり、と水の中を気泡が上がっていく音がした気がして、目を開ける。
見えるのはごちゃごちゃとしたうす暗い部屋。その部屋と自分を遮っている透明な壁が、わずかな光を反射して存在を示している。
なんだこれ。
壁に伸ばした手は、記憶にある自分のものよりもはるかに幼い。
むしろ、ぴちぴちした肌が自分のものであると認識しづらい。
もう一度、なんだこれ、と思って目を向けた両手の動きに合わせてか、足元からこぽこぽと気泡が上がってきた。
つられて視線をさらに下すと、小さな足のさらに下に、時折気泡を吐き出す小さな穴が見えた。
それから気付く浮遊感。
どうやら私は、水槽の中で浮いているようだ。
なんだ、夢か。
今まで夢では経験したことのないような、五感のリアルさを無視して早急にそう判断した。
水槽の中で呼吸が苦しくないはずがない、というのが判断理由の一つ。
もちろん、体が自分のものと思うには幼過ぎるのも理由。
それから、無視できない理由がもう一つ。
(これは、あれだよね。なんていうか、甥っ子がまだ小さかった頃にそっくりっていうか、明らかに成人ではなく、しかしてしっかりと揺れている感じ……)
自分の体だという実感がないせいもあるが、つい直視していいものかどうか迷いながら何度ちらちらと確認してしまうソレ。
つまり、幼い体に相応しいながらも、この体が男性であることを示すソレ。
男の子を育てた経験がある女性なら、あまり戸惑わないですむのだろうか。
だが生憎、私には子育ての経験そのものがない。
若干特殊な趣味を持っているせいで、成人のそれより、幼い子の裸体の方が背徳的な気がしてしまう。
いや待て、いやらしいと思うからいやらしいんです、とここは割り切るべきだろうか。
こんなことを考えているから、実際に子どもを持つなんて申し訳なくて、子どもを持つことを止めておいたのだ。
なんてそれは数ある理由の一つに過ぎない。
子どもを持つことがなかったことを、持ってみてもよかったかもと思ったことはあれど、悔やみきれないほど悔やんだことはなかったはずだ。
そこで私は、あれ、と首を捻った。
何だか今、人生の全てを振り返ってしまった気がする。
(……まあいいか)
夢だ夢。
夢の中で己を振り返ると、目が覚めてしまうのは何度も体験してきたことだ。
せっかく、水槽に浮かぶ少年体、なんていう面白い夢を見ているのだ。
もうしばらくこの夢を見続けてみてもいいだろう。