shyness
あぁ、また。そう思いながらも緩くあがった口角と照れくさそうに下がってしまった眉はすっかり目の前のグレーの瞳に映ってしまっている。
今日だけで何度目のこの表情だろう。彼といる時は、この表情ばかり浮かべている気がすると一人思いながら左顔の傷痕を辿る、かさついた指先にくすくすと声を漏らす。
「…アルフレッドさんは、いつも、かさついた手をしてますね」
「仕事柄、こればっかりはね」
「ハンドクリームは……銃を汚しちゃうんですよね」
そうだよ、と頷いて静かに微笑む彼にまた、あの表情を浮かべてしまう。
触れるか触れないか、慎重なくらいに優しい触れ方をする彼の手をとるとその5指に刻まれた傷痕を同じように、そっと触れる。
少しだけぴくりと動いた指先を見ると、悪戯心に傷痕へと唇を押し当て、ちらりと彼の顔をみても静かな微笑みを浮かべているだけだった。
「やっぱり、アルフレッドさんは照れないんですね」
「私を照れさせるのは中々、楽しみにはしているけれどもね」
「だって、私のできそうな事じゃ全然照れてくれないんですもん」
「なら、君のしなさそうな事をすれば照れるかもしれない」
「…私の、しなさそうな事」
むぅ、と頭を悩ませ始める私を微笑んで見守る彼をじっと見つめる。
私がしなさそうな事は幾つか思い浮かんでも、それは私ができないことばかり。
彼を押し倒してみるとか彼に抱き着いてみるとか、それはとても恥ずかしくてできそうもないと自分で分かりきってしまっているのだから、いつもしょうがないという結果になってしまうのだ。
何か思い浮かんだかな、と問いかけるすっと通る低い声音にすら私は、あの表情を浮かべてしまうのだから、何とも彼はずるい。
そう思うと少しだけ、羞恥心を押しのけた感情が顔をのぞかせる。
「アルフレッドさん」
なんだい、と開いた唇に、そっと私を重ねる。
唇越しに伝わる緩く上がった口角と少し下がった彼の眉。
今日初めての彼のはにかみに私の口角もまた緩く上がっていた。