恋に落ちたとき〜ケイジ
ケイジは心から後悔していた。
絶対、もう思い出させないぞ、って思ってたのに。
モモコの過去を聞いたとき、彼女は笑顔を作ろうと必死だった。
でも、あふれてくる涙を止めることは成功しなかった。
ケイジはモモコが泣くのにまかせ、ただ話し終えるのをまっていた。
4年前の、冬だった。
モモコと2人の食事は6回目だった。
夏に知り合って、最初はメールだけだったけれど
その後何度か、ビアガーデンで一緒に飲んだ5人で飲む機会があった。
5人の集まりが3度目を迎えた後
それまで、女の子にそこまで興味があったわけではなく
「彼女はほしいし、向こうが好きでいてくれるのだから自分も」
くらいの気持ちで付き合ってきた彼女と別れた。
そんな気持ちで何年も付き合ってきたのだから
今となっては申し訳ない気持ちで
だから、前の彼女には会えない、というのが本音だ。
モモコは、おとなしかった。
もちろん盛り上がりに水をさすわけじゃないけれど
話しかけられるまでは自分から話題を提供するようなことはなかった。
タクミの同級生だというカナコという女性は反対にとっても明るい人で
常に彼女を中心として話題は動いた。
カナコがモモコを守っているような、なんだか不思議な取り合わせだった。
カナコは華やかな美人だし、モモコもおとなしめではあるけれど聡明さを持ち合わせたまなざしがきらきらして
見れば見るほど惹かれる。
ケイジがモモコに恋をしたのは、5人の集まりの2回目だったろうか。
タクミがモモコとカナコに、
「彼氏は?いるんでしょ??」
ときいたときだった。
1回目のときは場の空気を壊すことを恐れて誰もできなかった質問だけれど、
だいぶくだけてきたからだろう、タクミは今思い出した、という雰囲気で気軽に質問した。
「いない」
答えたのはカナコだ。
そのあまりにきっぱりとした態度に男3人はあっけにとられた。
ケイジやタクミと同期の(男3人最後の一人)トモキは、カナコに惚れていたようだったので、そのきつい言動にびっくりしたのか、目が普段の2倍くらいになっていた。
カナコを包んでいた華やかなオーラは消えうせ、かわりに凛としたするどいオーラが彼女を包む。
ケイジはこんなときにもかかわらず、チェッカー○の「さーわるもの皆傷つけた・・・」という唄を思い出していた。
(うひゃー、禁句だったんじゃないの?まずいよ・・・)
カナコは賢い女性だ、場の空気が凍ったのを察すると、とたんににこりとして
「あんまりひどいこときくんだもん!しばらくいないのよ〜気にしてるんだから!」
なんておどけて見せた。
男サイドもほっとして、「いや、ばか!高嶺の花なんじゃねーか?」なんて軽口をたたく。
ケイジもほっとした。
トモキなんて、目が潤んで泣きそうになりながらうんうん頷いている。
モモコを見ると、彼女はカナコの後ろに隠れるようにしていた。
蒼白だ。
「大丈夫?」と声をかけようとしてとどまる。
カナコが男サイドから見えないような角度で、モモコのひじをさすってあげていた。
何かあるんだ、とわかった。
何もきかないことに決めて、またテーブルに視線をもどし、今までどおりカナコとの軽快なトークに加わった。
モモコの蒼白な顔は、どんな女性よりケイジを惹きつけた。
なぜか、どんな笑顔よりも女らしさを感じたのだ。




