向かう気持ち
このままもう2度と会えなくても、絶対忘れないって誓う。
悲しい予感が怖くて逃げた。
あのころは、逃げるほうが悲しいことだって、気づかなかった。
車を走らせるのは好きだ。
特にこれくらいの時間。
夕闇が迫って、後ろから何かに追いかけられそうなこのスリル。
向かうは好きな女の子の元、とあっては気持ちが高ぶるのも仕方なかった。
車内の時計は6時40分。
7時の待ち合わせには遅れずにつきそうだ。
彼女のためにとった、免許。
彼女のために買った、車。
今日こそ、告白するつもりだった。
相手も自分のことを、好きでいてくれると思う。
女の子に興味なんてなかったケイジは自分の新たな一面に驚かされていた。
この町が好きだ。
大都会でも、田舎でもない。
レジャーランドや名所は少ないけれど、それでも必要なものはそろってる、この町。
刺激なんかなくても、生きていければいい。
彼女と一緒に生きていければ最高だ。
今、その夢が叶いかけている。
ニットのワンピースがちょっと窮屈だった。
歩き出してから気づく。
静電気みたいに体にぴたりと吸い付く毛糸の感触が気になって、モモコは足を止めた。
着替えに戻っても待ち合わせには間に合いそうだけれど、せっかくの食事だ。
新しい服を着たい、という気持ちが勝って、また歩き始める。
ケイジと初めて会ってからは4年を超えるが、出会った当初より今のほうが相手を好きだと思う。
なんに関しても飽きっぽく、面倒くさがりの自分が恋愛に関しては根気強い。
奇跡みたいだな、と思った。
でも、モモコは知っていた。
その関係が、新たな局面を迎える瞬間が近づいている、ということを。