家へ向かう道中にて
僕は家へ向かう。無言でついてくる彼女。気まずい空気。こんなの絶対おかしいと思う。理不尽なことこの上ない。僕はただ散歩をしていただけなのに。なぜ睨まれ、どつかれ、挙げ句の果てにはそんな女をわざわざ家にシャワーを浴びせる為に案内しなくてはいけないのか?僕は奴隷か?僕にだって人権もあれば、男としてのプライドだってあるのだ。ここは一つ文句の一つでもいってやらねばならない。彼女の為にも。ここで言わないでいつ言うの?今でしょ。
「あ、あのひゃー」緊張のせいで完全に変な声が出た。しかも変な噛みかたをした。死ぬほど恥ずかしい。マンホールがあったら入りたい。
「なんでマンホールの中に入ってたの?」うん、文句はまた今度にしよう。声裏返っちゃったし。
まー、これも気になってたことだし。
「ママを探してたのよ。」
「ママ?何故お母さんがマンホールの中に?」僕は混乱して尋ねる。
「わからないわ。」悲しそうに首を振る彼女。
「マンホールの中にいる可能性に思いたったのは?ソースは?」
「なんとなくそう思ったの。」
「なんとなくね。」なんとなくそう思っただけ?
「マンホールの中にいる可能性がない訳ではないという理由だけでも十分だわ。」一点の曇りもなく彼女は言い放った。あるいは、曇りを晴らすかのように言い払った。もちろん彼女にも、それが裏を返せば「いない可能性がある」ということには十二分にも分かっているはずだ。
「どれくらい探しているの?」
「3年位かしら。」
「随分と根気強いんだね。」僕には3年という月日がとてつもなく永く感じられて、比喩ではなく本当に立ち眩みがしてしまった。
「私にとってママは本当に大切な人だから。どんな犠牲を払ってでも絶対に取り戻してやるんだから。寝る時間もお金も遊びもあなたも。」
「ぼくもぉ!?」
「私はどんな風に思われたって構わない。」
「僕は構うんですけど!?」
「人という字は支え合ってできてるのよ。」
「完全に僕だけであなたを支えてもはやTになってますけど!?」
「お願い」潤んだ瞳で僕の手を両手で握りしめながら上目遣いで見つめながら彼女はそう言った。完全に計算している。お色気攻撃か。馬鹿にされたものだな。だが、嫌いじゃないぜ。
「うん」誰かに頼られるのは嬉しいものだな。ましてやこんな美少女なら尚更だ。確かに人という字
は支え合ってできている。支える方も支える対象がいなければ倒れてしまう。僕のように。そんなこんなで家に着いた。