人穴2
「ぐわぁっ」
蛙を踏み潰したような鳴き声を発したのは僕だった。なぜなら、背後から襟を思いっきり誰かに引っ張られたからだ。振り向くとそこには、泥でところどころ汚れた小柄な女の子がいた。トラブルの予感。僕は平和主義者なのだ。
「ちょっと待ちなさいよ。レディがマンホールから出てきたっていうのにシカトってどういうことよ。なんかあるでしょ。」そういうとレディは僕を上目遣いで睨み付けている。
「何かっていいますと?」僕はアドリブがきかない。神様、台本をください。というか何故僕は神様に台本を頼まなければならない程、彼女に気を使わなければいけないのだ?
「リアクションよ、リアクション。」 さも当然とでも言わんばかりの顔つきで僕を未だに睨み付ける女がそこにいた。なんなんだこの状況は?なんなんだこの女は?初対面だぞ。そもそも僕は芸人ではない。固まってる僕に右の頬に衝撃が走る。どうやら僕はビンタされたらしい。えぇーっ!?なんでー?
「まー、いいわ。とりあえず家に案内しなさい。見てわかるでしょ。シャワーが浴びたいわ。」
「はい」とりあえず僕は調教されたらしい。考えるより先に返事をしていた。僕は平和主義者なのに。