人穴
とある日とある朝、僕は散歩をしていた。僕は散歩が好きだ。散歩をしていると色々なことを考えることができる。非生産的なことや非生産的なこと。生産的なことはなるべく考えないようにしている。だって楽しくないから。非生産的、無駄なこと程面白い。それは大人にはわからないことだろう。例えば僕がどのようなことを考えているか?それはここでは割愛させて頂くとしよう。だってそれは今、大切なことではないから。今、本当に大切なことはマンホールから女の子が出てきたということだ。
僕は人気の少ない裏道を散歩をするのが好きだ。だからその日も、人という人は僕くらいなものだっだ。塀の上で眠そうな欠伸をしている猫を除いて。
始め道の真ん中にあるそれは、ゴトゴトとしていた。かと思うといきなりバーンという効果音が似合いそうな開き方をした。そして、恐る恐る黒髪の少女が穴の中から地上を覗きこむようにして、伺っているのだった。思いっきり目が合ってしまった。こんなときなんて言えばいい?どうすればいい?歩みを止めることなく考え続けた僕が出した答えは、いつものように、いつものごとくポーカーフェイスを装い何事もなかったかのように目をそらし、そのマンホールを通りすぎることだった。それがレディに対するエチケットであり、マナーというものだろう。誰だってマンホールから出てくるところは見られたくないものだろうから。特に嫁入り前であろうレディにとっては。言い訳かもしれないけれど。