アネモネ
作者は豆腐メンタルです。中途半端に終わるのでいやな方はお気をつけ下さい。
前世というものをあなたは信じるだろうか?
そんな非科学的で根拠のない物信じられるわけがないという方が大半だと思う。
私もその中の一人であったはずなのだが訂正しなくてはいけないらしい。
どうやら前世は存在するようだ。たった今記憶を全て思い出しきってようやく認める事にした。
前世は存在する。
そして……重要なのはここが私が前世ハマっていた『ANEMONE~貴方は真実を知らない~』というファンタジーな乙女ゲームの世界であるということだ。
乙女ゲームに転生とか物語では有りがちな設定だったがまさか私が自ら体験するとは思いもよらなかった。
アネモネの花言葉は「儚い恋、君を愛す、真実、嫉妬の為の無実の犠牲、薄れゆく希望」などが挙げられる。作者側がどの意味でコレを使ったのかは分からないけれど、物語的にはどれも的をいている気がする。
さて、ストーリーの説明はいささか骨が折れるが確認しておく必要がある。
この物語はどのルートを行ってもある少女の影をつきまとう。名前は『雪白 時羽』。
彼女はこの世界の希望であり、未来だった。そのはずの彼女はもう居ない。攻略対象の彼らは口を揃えてそう零す。
それはそうだ。彼女は唯一世界の穢れを浄化出来る能力の持ち主だったのだから。世界が少しずつ、しかし確実に闇に飲み込まれていく。
そんな中、彼女と瓜二つの記憶喪失と自称する少女が現れる。それがヒロインだ。
ヒロインは一体誰なのか?希望か、只の幻想か、それとも災厄なのか……
答はゲームをプレイしたことのある私は嫌と言うほど知っている。
事実、彼女は『希望』になりえる存在であり、『幻想』でもあり、『災厄』にもなる非常に厄介な人物だった。
ヒロインは『雪白 時羽』をモデルとした世界を救う為だけに人工的に創られた人間だったのだ。
攻略対象達はヒロインを時羽と重ねていくうちに純粋無垢な彼女が好きになっていく。彼らは彼女が本当は時羽だったのではないのかと思い込んでしまう程に。
それこそがヒロインの目的であり、使命なのだからそう振る舞うのも当然といえよう。ヒロインは『雪白 時羽』に成り代わることによってようやく浄化の力を手にすることが出来るのだから。
ヒロインは決して無垢な少女ではなかった。只あるのは世界を救うという使命のみ。彼らがそれに気づくことはない。
誰かとのハッピーエンドで浄化の力を手いれ、ヒロインは愛を理解する。ノーマルエンドでは浄化の力を手にするが、誰にも心を許すことはない。バッドエンドは浄化の力を手に入れられなかったり、ヒロインが悪役に殺されたりで踏んだり蹴ったりな恐ろしい展開が待っている。
ざっとこんな感じのしょっぱい難易度高すぎの鬱ゲーだった。
私は主人公ではないにしろかなりメジャーなキャラクターに生まれ変わったようだ。なんと、モブじゃない。
何となくもう察しがついていると思うけれど私の名前は『雪白 時羽』。現在3歳。
どうやら、とってもとっても嬉しくない異世界転生を遂げてしまったらしい。ゲーム始まる前に死んじゃってるパターンだ。私にそれを知らせてどうしろと?
ちなみに、生前二十前半。普通の国公立の薬学生をしていた。確か、ナイフで刺し殺されたのが原因だった気がする。
一応今までの『雪白 時羽』の記憶があるが如何せん、日本で暮らしていた年数の方が遥かに長いため以前の人格はぶっ飛んだわけだ。
どうしよう。絶対変に思われる。
実は雪白家は世界有数の金持ちだから、時羽は生粋のお嬢様だ。記憶がいきなり入り込んで来て、ぶっ倒れたので恐らく屋敷の私の部屋にいると思うんだけど恐ろしくて目が開けられない。
前世の記憶というものは粗方整理がついたがまだ現実が受け止められないのだ。冷静ぶっているが内心かなり怯えている。私が十代で死んでしまうことも、世界のことも。
「大丈夫、大丈夫。怖くないよ。僕がついてる。ずっと一緒だから」
手がふいに暖かくなった。声の主が手を握ってくれたのだ。
ゆっくりと目を開けるとそこには双子の弟の凪羽がいた。
そういえば、凪羽の前でぶっ倒れたんだった。悪いことをしたなぁとごまかし笑いをすると少年はふっと笑い返す。
「良かった。ずっとうなされてたから。今日は無理しないで寝てる?」
「うん、私……どれくらい寝てた?」
「2日間、ずっと寝てたよ。目を覚まさなかったらどうしようって泣きそうになった」
「……ごめんね」
凪羽はいいんだよと笑いかけてくれる。彼は彼だけは私を裏切らない。
私は前世の記憶から確信していた。凪羽は最後までヒロインを疑っていた。彼は最後まで私を探してくれた唯一の人物。そして、時羽を取り戻す為に世界を敵に回すことでさえ厭わない人。
私は元々人を信用出来ない性格だが彼だけは特別だ。
転生しても悪いことばかりではないなと心の底から思わせてくれる存在。
「どうか、凪羽だけは………」
私を裏切らないで。
そう続けようとして辞める。凪羽が抱きしめてきたからだ。ふわりと香るこの花の香りは何だろうか。
とても、彼の雰囲気に合っていて安心する。
「でもね、出来るだけ……僕と離れないで。時羽は消えてしまいそうで怖い」
「………」
私は何も答える事など出来なかった。彼に嘘はつきたくない。だから、そっと彼の儚げな体を抱きしめ返す。
凪羽はびくりと体を震わせた後困ったように溜め息を吐くのだった。
ありがとうございました。中途半端ですみません。




