3.真子ちゃんとむーちゃん
ある日、お母ちゃんが急に『引っ越しする』って言い出して、そんで引っ越すことになった。
なんか、おとーちゃんが病気なんやて。
別に悪いところなんて無いみたいなんやけど、な~んか病気らしい。
確かにお父ちゃんはここのところ元気が無くて、いっつもくら~い顔しとる。
引っ越しが決まった時、いつもは怖いお母ちゃんがめずらしく、えらい優しい声でうちに“こう”言ってきた。
『真子、よう聞いときんさい・・・・・・
人間はな、ときどき心が風邪を引く事もあるねん。
お父ちゃんは今、そうやって心が風邪ひいとるんよ。
そんでな、お父ちゃんの風邪は長引きそうやから、おばあちゃん家でゆっくり病気が治るのを待つんよ』
分かったような、分からん様な話やったけど、おかあちゃんの目が真剣やったから黙って「うん」って言った。
おばあちゃんは好きや! 一緒に住めるのは嬉しいで!
だから引っ越しは別に良いんやけど、うち、今度小学生になったばかりやねん。
つまりな、学校がかわる、え~っと何て言うたっけ、そうそう「てんこー」や、てんこーはちょっとだけ嫌やなんやなぁ。
一年生なのに、すぐに友達とバイバイはなぁ・・・・・・
まあ、こっちにも友達はいるんやで!
なんたってうちは“しゃこーてき”やから、友達作るのぐらい簡単や。
こういうの『りあじゅう』ちゅうんかな?
去年、おばあちゃん家に来たとき、隣の子とすぐに仲良うなった。
ミサキちゃん、いう。
ふたつ上のおねえちゃんで美人やで~。
ミサキちゃんは美人なだけじゃなくて、明るくて楽しい。
ただなぁ、ミサキちゃんは時々怖い。
うちも学校じゃあ“怖い”言われてるけど、ミサキちゃんはそんなんやあらへん。
もう、なんちゅか“レベル”が違う。
ミサキちゃんが“勇者の剣”ならうちは“ひのきの棒”ぐらい違う。
いや、うちは別にミサキちゃんにいじめられてないで!
いじめられてるのはミサキちゃんの子分のケンイチロウ君や。
ケン君は優しい。
そんで、三年生では一番背も高いし顔も格好ええ、おまけにケンカもむっちゃ強い!
いつかうちが“よそものや~”って言われて、こっちの子達に囲まれた時、ケン君が走ってきてみんなやっつけてくれた。
四年生ぐらいの子が三人もいたのにケン君一人に、だ~れもかなわへんかった。
それからは、誰もうちのこと、『よそもの』なんて言わへん。
みんな仲良しや!
でもな、ケン君がケンカしたって聞いた時、ミサキちゃん、ものごっつう怒ってなぁ。
あれが『鬼』、いう奴や。
「もうケンカせえへんって約束したやろ!」
そう言ってケン君を散々にどつきまくったんや。
うちの地元の言葉で言うなら、『ぼてくりこかす』言う奴やな。
ケン君、ボッコボコにされて最後には泣いてもうた。
ホンマ、おっそろしかったで~。
いや、うちを守ったケンカやから、あれぐらいですんだんや、って聞いた時はもっと怖かったけどな。
あ、話変わる。
今度、こっちで新しい友達ができたんや。
おばあちゃん家に引っ越してから、ミサキちゃん達に裏山に連れてって貰ったんやけど、何でか、そこでしか会えへん不思議な友達。
ケン君とミサキちゃん、あとうちと同い年のシオリちゃんとユウジ君だけが知ってる友達や。
ホンマ、と~っても不思議な子や。
なまえはな、『むーちゃん』言うねん。
山の中に住んでるみたいやのに、とっても綺麗な服を着てる。
ちんまい感じでむっちゃ可愛い!
ピンクっぽく見える不思議な色の髪に茶色のリボンがよお似合ってる。
むーちゃんがリボンを揺らしながら、
『綺麗な服が好きなんですぅ!』
って、見た目と同じ可愛い声で恥ずかしそうに言うたときは、“うわぁ~”なったで!
いろいろ質問して見たくなった。
不思議な色の髪やね、綺麗やからええけど。
綺麗な服が好きって、むーちゃん家、お金持ちかな?
あんま、そうは思えへんけど。
そんな風に色々考えたけど、やっぱり一番気になる事は別にあった。
だから、
「何でむーちゃん、山にいるん?」
って聞いた。
そしてら、むーちゃんじゃなく、ミサキちゃんたち四人が、
「もう少ししたら分かる。
むーちゃんが自分で教えてくれるまで待たんといかん」って言う。
あと、
「秘密の友達だから、むーちゃんが自分で行きたい所以外、つれて行っちゃあ駄目だよ!」
ってミサキちゃんに強う言われて、うちはしっかりうなずいた。
だって、あのボッコボコは絶対にごめんや!
うちは死にとう無い! まだ死にとう無いんや~!
みんな八十年、九十年生きる世の中で、じんせいが六年で終わりって嫌すぎるわ!
『くんし、あやうきにちかよらず』やで!
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夏休みになった。
学校は転校してないけど、結局うちは裏山が好きになって、町にはよう行かんようになった。
山は楽しい!
むーちゃんがうちを色んなところに連れてってくれる。
大人が知ったら怒られそうなところでも、むーちゃんは安全に通る方法を知ってる。
山のてっぺんまで行ったり、秘密の滝を見たり、花一杯の野原で遊んだり、もう毎日楽しくってしょうがない。
あと、不思議とむーちゃんには狸がなついて付いて来る。
狸、可愛いで、ホンマ!
でもな、夏休みの中ごろから、あんま楽しく無うなってきた。
何でかって?
別にむーちゃんや山が嫌いになった訳やない。
近頃、お母ちゃんの元気が無うなってきたんや・・・・・・
お父ちゃんは少しずつ元気になってきた。
だからお母ちゃんはお父ちゃんの前では、つらい顔を見せへん。
うちの前でも、そうなんやけど、やっぱり分かるのは分かる。
お母ちゃんが元気のない理由は『お店』や。
お父ちゃんが“風邪を引いて”会社をやめてもうた。
お母ちゃん、文句も言わんで『ええで!』って言った。
それからお母ちゃんは、おばあちゃん家の一階半分を使って、お好み焼き屋を始めたんや。
でもな、店を開いてもうすぐ3ヶ月目になるんやけど、お客さんが少ない。
1回来てくれたお客さんは何回も来てくれるし、「美味い!」言うてくれる。
ケンちゃんやシオリちゃん達は、お父さんまで連れて来てくれるけど、やっぱり毎日って訳にはいかへん。
つまりな、新しいお客さんが増えへんねん。
お母ちゃん、夜になるとひとりでノート開いて“うんうん”うなっとる。
どうにかならへんかなぁ・・・・・・
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「真子ちゃん、山、嫌い?」
林の中の小川で休んでると、むーちゃんが心配そうにうちの顔を覗いて来た。
どんな服を着ていても、むーちゃんが絶対に付け変えない茶色に白のラインが入った大きなリボンまで、気のせいか頭の上でしおれた様に見える。
ここは裏山の中でも、うちが一等お気に入りの場所や。
時々、狸やイタチが水を飲みに来る。
うちと目が合っても逃げへんし、それどころか手に乗せたお菓子まで食べてくれる。
蝶々も綺麗で、おとぎの国みたいな場所。
そんな静かな場所でためいき吐いたら、そら響くわなぁ。
む~ちゃん、なんか悲しそうや。
ごめんな・・・・・・
ちゃんと謝らんとなぁ。
「せっかくむーちゃんが教えてくれた場所で“ためいき”なんかついて、ホントごめんな。
山が嫌いとかやないで! ちょっと困った事があって落ち込んどるだけ!」
うちがそう言うと、むーちゃんが首を傾げる。
「困ってるなら、私がお手伝い出来ないかなぁ?」
「う~ん。 ありがたいんやけど、金の話は子どもにはどうしようも無いわ!」
むーちゃんがお金の稼ぎ方知っとるとは思えへん。
無茶な話したら悪いわ。
そう思って話をやめようしたんやけど、むーちゃんは「心配だから」と粘ってくる。
この子、可愛い顔してるけど、まるでおっきな狸みたいやな。
食いついたら離さへん。
しかたないんで、お店にお客さんが少なくて困ってるって素直に言う。
って案の定や、むーちゃん、エライ難しい顔になってもうた。
だから、「もう、この話やめ!」って言おうとした。
でも、それより早く、むーちゃんがとんでもない事を言い出したんや!
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この1週間、お店はめっちゃ忙しい。
おばあちゃんやうちだけじゃ間に合わないんで、お父ちゃんも引っ張り出して、お店の外で並んでるお客さん達の案内をしてもらう。
風邪とか言っとる場合や無いで!
えらいこっちゃ、夏休みの宿題もまだ残っとるのに、このままじゃあ2学期には先生に怒られてまうわ!
むーちゃん!
どんな手使ったか知らんが、あんたエライ事してくれたなぁ。
おばあちゃん家の一階を“かいそう”したこの店は一戸建てだけあって、けっこう広い庭に囲まれとる。
一週間前から、その裏庭に狸やらイタチやら白テンやらが、何故か集団でやって来るようになった。
最初は窓の外から、じいっと店の中を見て、お客さんにお好み焼きをねだったんやそうや。
流石に“それはまずい”とお母ちゃんが庭に皿を出してキャベツを置いたら、なんと、こいつらその場でキャベツ食べ始めんやと。
そんで、それが可愛いって、すぐに新聞記者が取材に来た。
まあ、むーちゃんに言われた通りに、うちが他人の振りして電話したんやけどな。
それから毎日毎日、狸たちは決まった時間にやってくる。
必ずお昼の十二時と三時ごろの一日二回や。
ちょうど、お昼とおやつの時間。
こうなれば、そりゃ人も集まるわ。
ちなみに子づれ狸の一家が一番の人気者や!
お母ちゃん狸の後を子狸が四匹、よたよたと付いてくる。
子狸どもの動きが妙に演技臭いんやけども、なんでか、あれを気にしたら負けやと思う。
たぶん・・・・・・
一匹、耳に白い筋が入った子狸は目が特にクリクリッとして、動きもめっちゃ可愛い。
お客さん達のけーたいカメラもこの子ばっかり追いかけとる。
おい、ポーズとるな!って、やっぱり気のせいやろうなぁ。
いくら何でもあらへんわ!
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夏休みもあと少しで終わりや!
お客さんのラッシュもようやくおさまって、店も落ち着いてきた。
お客さんが程ほどに来てくれるようになって、“じょーれんさん”も増えそうな感じやさかい、お母ちゃんもホッとしとる。
代わりに、お父ちゃんが元気になりすぎて、あっちこっちに出かけてはしょうもない事ばっかするんで、お母ちゃん、今度はお父ちゃんをよう怒るようになった。
まあ、ふたりとも楽しそうやからええけどな。
今日からはお店の手伝いもええそうや。
タヌキもお客さんに合わせたみたいに、数が少のうなってきた。
そらそうやろ、タヌキってホンマはものすご~く臆病なんや。
人前には夜しか出てきいへんし、昼間の町より涼しい森の中が好きなんや。
こうして毎日みたいに町に来る方がどうかしてるんやで。
そう、むーちゃんがタヌキたちに“お願い”でもしない限り、こんな事は絶対に起きへんかったんや!
だから今日はむーちゃんにお礼しに行く。
あの時、むーちゃんが狸やイタチを指さして、
『みんなにマスコットになってもらったら、お客さん増えるんじゃないかと思うんだけど?』
って言った時は、もうビックリしたわ。
不思議な子や、とは思うとったけど、ここまで不思議とは思わへんかった。
うちかて、最初は“アホくさ!”思うて、
『狸にお願いなんて出来るんかいな!?』って言おうとしたんやけど、結局はやめた。
なんでか、むーちゃん見てるうちに、この子なら出来る様な気がして来たんや。
そんで、それは当たった。
ホンマに狸やイタチが、店のマスコットになってくれた。
ほかにも毎日、いろんな動物が入れ代わりで来てくれた。
もう、店は心配ない。
むーちゃん、ホンマにありがとうな!
ただなぁ、うち、いや~な予感がするんよ。
ここのところ、あの子連れ狸一家が来いへん。
山から店まで結構な距離がある。
もしかして子狸が車に・・・・・・、
そんでむーちゃんが泣いとるかもしれん。
いや、もしかするともっと悪いかも。
ちょっと怖くなる。
でも、行かんとならん。 段々駆け足になってきた。
なあ、むーちゃん。
うち、あんたがホンマは“何でも”良えんよ。
元気で居てくれたらな。
ずっと、友達でいてくれたらな・・・・・・。
走って、走ってようやく裏山に着いた。
いつもよりずっと早く着いたはずやのに、いつもよりずっと時間が掛かった気がする。
いつもの古いお堂の前まで来て、いつものようにむーちゃんを呼ぶ。
「むーちゃ~ん! 来たで~ 真子やで~」
何度も何度も呼んでみる。
いつもなら、一回で出てきてくれる。
足音だけで気付いて、出てきてくれる事もようある。
でも、今日は何回呼んでも返事がない。
怖ぁなって来た。
なあ、むーちゃん。 もしかして、もう会えへんちゃうやろうね?
嫌やで、そんなん嫌やで!
気付いたら、うち泣いとった。
声は出さんように頑張った。
けど、やっぱり泣いとった。
山の動物たちはとっても臆病や、みんな静かなのが好きや。
むーちゃんに教えてもらった。
だから、大きい声出すのはがまんした。
これからもがまんするさかい、かえってきてぇな、むーちゃん!
どんくらい泣いてたんやろ・・・・・・・
ずっとしゃがんでたら、おしりになんか当たった。
振り向くと、白いイタチがおった。
うちと仲良しの奴や!
やった、思うたで!
「なあ、ひょっとして、あんた。 むーちゃん、どこいるか知ってるんとちゃうか?!」
慌てて聞いたら、やっぱり言葉が分かるみたいにうなずいて、それからゆっくり歩き出す。
イタチが一回、振り向いた。
付いてこい、言うてるみたいやったんで、後を付いていく。
イタチに付いて来て正解やった。
予感は“少しだけ”当たったけど、それは別に良いんよ。
花畑の真ん中に、むーちゃんが居てくれたんやからな!
むーちゃん、うつぶせになって気持ちよさそうに眠っとる。
ばか、むーちゃん。 いらん心配させるな!
でも良かったぁ、また会えた。
しかしなぁ、むーちゃん。 あんたホンマ可笑しいで!
さっきまで泣いとったのも忘れて、うち、笑ってもうた。
声、押さえるのも苦しいわ。
だってな、こうして見てると、むーちゃんってホンマに“タヌキやな”って、わかるんやもん。
あんた何でシッポがあるん?
あと、いつもの茶色いリボン。
これって、やっぱり耳やったんかぁ。
ふわふわしとるから、ついつい触りとうなるけど、今はがまんや。
あとしばらくは好きなだけ寝とき!
うちが誰にもじゃまさせんからな!
イラスト提供:一理様
これにて暫く、お休みです。
読者様の反応が良ければ是非続編を、などと妄想中です。
最後のイラストを提供して下さった一理様に深く感謝致します。