如月エンカウント
春の心地よい風がカーテンと髪を揺らし、桜の微かな匂いを運んでくる。
見慣れた外の景色に、まだ見慣れない新しいクラス。
俺、如月行人は高校二年生を無事に迎え、先生の数学の解説をBGMに外で体育をしている他のクラスの生徒を見ている。
手元にあるノートは真っ白。
体育してる女の子の肌も真っ白。うん、いいね。
でも、活発さの垣間見える日焼けした肌もいいと思う。
「そんなに悩んでどうした如月」
「いや、色白か日焼けかどっちがいいかなって思って」
「そうか、私は日焼けのがいいと思うな。灰になるくらい焼けてるほうが」
しまった。油断していて先生が近づいているのに気付かなかった。
「ということで廊下に立っとけそして焼けて灰となれ」
「廊下に立っとけって古臭いっすね先生」
「うるせえブルマ好き。てめえのが古いわ」
なぜそれを知っているっっ!!
突き刺さる新しいクラスメートの目!!
耐えられず俺はダッシュで教室を出た。
*****
そんなこんなで6限目の授業は終わり、俺は教室の中へ戻ってきたが女子からの視線が痛いみんな誤解だからそんな目で見ないでっ!!
傷心気味に窓際後ろから2番目の席へ向かう俺へ、窓際1番後ろの席から声をかけられた。
「...俺は好きだぜ、ブルマ」
「うるせえぶっ飛ばすぞ変態」
どこか悟った様な表情で話しかけてきたのは、悲しくも小学校からの付き合いな島時雨だ。
黒の短髪に正しい身だしなみな模範的生徒で、勉強はできるわ運動神経はいいわ顔はいいわと、ダメなところがない完璧高校生なのである。
しかしそれは外側の話で。
内面はというと。
「変態とは失礼な。健全な男子高校生なら誰でもそれくらい考えるだろ。あ〜、ポニテっ子の首筋最高〜」
「だだ漏れしてんだよド変態」
この通り残念な変態だ。
しかしこの姿を見せるのは親しい仲の人だけで、みんなには隠しているというのだからタチが悪い。
そんな変態な親友を怪訝な目で見ていたところへ、誰かが近づいてくる。
「時雨...また変な話してるの...?」
「変とは失礼な。ただ俺の好みをゆっきーにもわかってほしく「分かりたくない関わりたくない」
「酷くね?」
さめざめと泣き真似をする時雨を横目に、話しかけてきた人物、山田惣太郎の方を向く。
身長が平均より低く眼鏡をしていて運動神経も勉強もそんなに良くない惣太郎だが、周りがよく見えていて、人のことを気遣えるいい奴。
二年連続同じクラスで、割と話す方だし一緒に行動することも多い。
「だからな?ブルマ、ポニテ、ニーソ。あぁ、これもうたまんねえなちょっくら行ってくるわ」
「逝ってら」
「行人発音おかしくなかった?」
こんな、他愛もない話をする俺たち3人は、今年もこんな感じで行くんだろうなと考えつつ、時雨を送り出して惣太郎を席へ返して帰りのホームルームを待つ。
さよなら時雨。
*****
そして放課後。
全ての用事を終えて後は帰宅するのみだが。
「如月くーん。カラオケ行かないー?」「しましぐも誘ってよー」「行くだろ如月!楽しもーぜぃえーい!」
クラスのイケイケグループからお誘いを受けてしまった。
正直俺は、あんなチャラチャラしていかにも高校生みたいな奴らは好きではない。
というか、そのテンションについていけないだけだけど。
それに、俺にはやることがある。部活でもなく、勉強でもなく。
よって。
「わりぃ、今日は俺が晩飯作らなきゃなんだよ。また誘ってくれ」
軽く、嘘をつく。罪悪感はそれほどない。
それを聞いた彼らは、ええーとかいう奴もいたが、しょうがねーなと言って、さっさと教室から出て行った。
...さて。俺も帰ろうか。
「行人、一緒に帰ろ?」
周りを見て、タイミングを見て、話しかけてきた惣太郎とともに。
時雨?知らね。
*****
「それにしても、やっぱり行人は人気だね」
「そんなことねぇよ。こんな付き合い悪い奴が人気出るわけねーよ」
夕暮れの坂道を下る。
グラウンドではサッカー部や野球部、テニス部が汗水流して努力を重ねている。
ついでに頭が地面に埋まって胴から下が上に出ている人影があった気がしたけど気のせいにしとこう。
どこの島時雨かもわからないし。
「時雨も人気だよね。誘われてたし」
「あいつはなー。外面だけ見たらトップクラスだからなぁ」
本当に。本人にはしんでも言わないけども、学内で3本の指に入るほどの容姿をもっているのに勿体無い。
内面のせいでグラウンドに埋まってるからね今。
体育してた女子に成敗されたか。
「それに比べて、僕は全然だよ」
「どうした惣太郎。お前らしくもない」
珍しく、惣太郎が自分のことを話し出す。普段は言わないのにどうしたのか。
「...いや、ごめん。急になんか変なこと言っちゃったね」
「構わねーよ。友達なんだしな」
悩みがあるのならば、友達としてはなんとかしてやりたいと思うものだろう。
「大丈夫。気にしないで!それより行人はさ...」
気にするなと言って。話を逸らしてしまった惣太郎に待ったをかけられず、話は駅前にできたラーメン屋の話になってしまった。
まぁ、惣太郎が大丈夫というのなら大丈夫だろう。
そんなに心配しなくともこいつは強いやつだと、一年間ともに過ごして知っているのだから。
「また時雨も誘って3人で行くか」
「うん!楽しみだな〜」
約束を交わして、駅へと続く道を歩くその丁度半分くらいまできたところで。
曲がり角。
何の変哲もない曲がり角で。
「んでさ、最近太ってきたんだよやっと、ってうおっ!」
「わっ!」
人生を変える、赤髪の女の子と、出会ったのだった。
出会いは唐突とは言うけれど。
ここまで何気無いものだとは。
この時の俺は知る由もない。
出会った赤髪少女は、その第一声を発する。
「...すすすすいませんっ!地図見て歩いてて...ごめんなさい!」
すげえテンパってた。
赤髪だからなんか怖い系の人かなーとか思ったけどそんなことなかったわ。
テンパり赤髪少女は、謝りながらさらにテンパっている。
あたふたと1人で楽しそうな人だな...。
それにしても、どこの人だ?
そう考えるほど、彼女の姿はこの辺の人々とは一線をなしていた。
赤い長髪。赤目。白い肌。赤いピアス。質素な白いワンピース。身長は160ないくらいか?
とにかく、赤と白のコントラストが映える、可愛い系の女の子がテンパっている。
そろそろ可哀想なのでどうにか話しかけてみよう。
「ほんっとーにすいません!あわわわ...」
「お、落ち着いてくれよ。そんなにテンパらなくても大丈夫だ」
「う...。そ、そうですね。落ち着く...」
ポツリと呟き、深呼吸を一つ。二つ。三つ。四つ...。
「って多すぎるだろっ!!」
「ふぇええええ!?」
流石に突っ込まざるをえなかったわ!深呼吸でテンパるってもうこれわけわかんねぇな!
「大丈夫だよ。行人は気にしてないし」
若干俺までおかしくなりかけていたところで、見兼ねたのか惣太郎が切り出した。
「地図見てたっていってたけど、どこか探してるの?」
惣太郎のその問いに、はっとなった彼女は落としてしまっていた地図を拾いつつ。
「あの...この辺に住んでる人ですか?」
「そうだよ。どこに行きたいの?」
おお...会話ができてる...。流石話しやすい男、山田惣太郎だ。
「こ、ここなんですけど...わかりますか...?」
まだ少しギクシャクした感じで聞いてくる彼女に苦笑しながら、惣太郎と二人で地図を見る。
そこには一つだけ赤丸が書かれていて、その場所は。
「これ行人の...」
「やっぱり?気のせいじゃない?」
「うーん、多分...」
「わ、わかりましたか...?」
わかったと言うかなんと言うか。
この赤丸のところにあるのって...。
「俺ん家?」
まさかの展開。
俺が呟いたのを聞いて、彼女はえっという表情を見せた後、食いついてきた。
「あっ、あの、名前聞いてもいいですか?」
おずおずとそう聞かれたら、言うしかないだろう。
「き、如月行人...だけど...」
俺の名前を教えた。
瞬間。
「...見つけた。...如月さん」
「は?ちょ、」
どういう感情からか、赤髪少女はしゃがんで、俯いて、泣き始めてしまった。
え?俺が泣かせたの?え?
この状況を把握しきれない俺はテンパってしまう。
惣太郎も目を丸くして驚いている。
謎の空気が生まれてしまい、それから数分はこのままだった。
*****
「...もう大丈夫か?」
「は、はい...。すみません、いきなり...」
漸く泣き止んだ赤髪少女を気遣いながら、少し冷静さを取り戻した俺は、まず、聞きたいことを聞くことする。
一問一答。
「気にすんな。それより、見つけたって何の話だ?」
「...起きてから、あなたを探すのが私の使命だったんです。一緒に、戦ってもらうために...」
「......」
what?何をいっているんだろうか。この子は。
いきなり頭が混乱したが、とにかく、質問を先にしきろうとおもう。
「なんで俺?」
「それは、本当に、偶然で、必然なことだったんです」
「戦うって何と?」
「黒という存在とです」
よし、意味不明。
一体全体何を言っているのだろうかこの赤髪少女は?
「とうことで、これからよろしくお願いしますね、如月さん」
何が何だかわからないうえに、よろしくされてしまった。
最初はあれだよ?曲がり角で女の子とぶつかって、トキメキ展開か!?とか思ったりしてたけどこれあれだ面倒な展開だ。
「っあーもーーー!!わけわかんねえ!」
「行人落ち着いて」
「落ち着けねーよ!大体名前も知らねえのになにをよろしくされんの!?」
「そういえば名前まだ言ってませんでしたね!私はレイナ・ライヴァーバードっていいます。よろしくっていうのは、居候的な...」
「ちょちょちょ待て待て待て」
待て待てほんと待て。
まさかとは思ったけど外国の人だったかー。にしては日本語くそうまいなおい!
それよりそのあとが問題!居候的な?てなに!?
「まさか...うちに?」
「ダメですか...?」
ダメに決まってんだろ!?見ず知らずの赤髪少女と一つ屋根の下!?下心とかよりも恐怖が勝ってるよ!
「だめじゃないけど」
頭ではそう思っていたが、上目遣いには勝てませんでした。
如月行人もただの男子高校生だからな!
「やったー!」
「ちょ、行人よくないでしょ!」
「あっはっは俺もそう思うわ惣太郎!」
かくして、赤髪少女と出逢い、俺の人生は大きく変わった。
これから一体、どうなっていくのかは俺にはわからない。