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鬼一口  作者: 乙丑
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 大宮の車の中、信乃はジッと顔を俯かせたままだったが、「あっ!」

 と、声をあげた。

「すみません大宮さん。ちょっとそこのコンビニで停めてくれませんか?」

「なにか買うのかい?」

「いや、買うって言うより、お金を下ろしたいんですよ。明日ゲーム買う予定だったんで、絶対必要になる時以外は、あまりお金を持たない主義なんで」

「だったら明日いけばいいんじゃないの?」

「部活もあるし、近くのデパートは夜八時までしか開いてないからね。時間や距離的にもコンビニに行く余裕がないのよ」

 車が停まり、降りた信乃はコンビニの中へと入っていく。

 それから数分して、戻ってきた信乃の表情は緊張しているともいえる。

「どうしたの?」

「あのね、お金下ろす前に、大体いくらくらい入ってるってのが頭の中にあるとは思うんだけどさ、それをはるかに凌駕するお金が入ってた」

「えっと、どういうことかな?」

「先々月は色々と忙しくて、ブログの更新してなかったんだけど、まさかアフィリで十万振り込まれてるとは思わなかった」

 信乃の言葉に、皐月と大宮は目を点にした。

「それって、すごい大金じゃない?」

「だ、だからある意味びっくりしてんのよ」

「と、とりあえず落ち着こう。別に不正で手に入れたお金じゃないんだし」

 大宮はそう言いながら、信乃の興奮を落ち着かせる。

「二人とも、なにか飲むかい?」

「それじゃぁ、コーラを」「わたしはココアで」

 二人がそう言うと、大宮は車から降り、コンビニへと入っていく。

「でもすごいね、十万なんて」

 皐月が声をかけている中、信乃は携帯を取り出し、画面を魅入っていた。

「うわ、クリック数二十万とか、洋服で十万も買い物してくれてる人もいる」

 皐月はあまり携帯でサイトなどをみることがないため、詳しくはないが、とにかくすごいと言うことだけは理解できた。

「でもさ、別に信乃が紹介したわけでもない商品が売れてるのに、それが信乃の収入に入ってるんだね?」

「ああ、パソコンや携帯にはクッキーっていう機能があって、わたしのブログから商品を紹介しているサイトにアクセスした人がそこで買い物をすると、そのクッキーを介してわたしのアフィリデータに紹介料が加算されるの」

「つまりそれだけ買い物してくれた人がいるわけだ」

「こっちはあまりブログ更新してなかったし、ただパーツをつけてるだけだったから、すごいビックリしてる」

 信乃はそう言いながら、ふと、あることを思い出した。

「そういえば、海斗さんが来未さんから借金してるって話があったよね?」

「うん。でも支払いはいつでもいいし、最悪かえさなくてもいいとか」

「いや、さすがにそれは可笑しいでしょ? 貸したお金をかえしてもらわなくてもいいとか、それってお金に余裕があったんじゃなくて、お金を手に入れることに対して余裕があったってことになるんじゃ」

 信乃はゆっくりと顔を俯かせた。「そういえば、あの鑑識課のお姉さんが妙なこと云ってたけど……」

 ゴクリと喉を鳴らし、ゆっくりとコンビニの方を見やった。

 ちょうど、大宮が店から戻ってきていた。

「二人ともお待たせ。はい、信乃さんはコーラ、皐月ちゃんはココアだったね」

「大宮さん、すぐに祥子さんが貯金しているかもしれない銀行通帳を調べてくださいっ! それと海斗さんから、いつ来未さんから借金をしたのかも」

 突然そう云われ、大宮はたじろぐ。

「もしかしたら、来未さんがお金に余裕があった理由って……」

 ワナワナと身体を振るわせる信乃を見ながら、皐月と大宮はただことではないことがすぐに理解できた。

「わかった。ただちょっと時間がかかるかもしれない。それがわかるまではあまり無茶な行動はしないでくれ」

 大宮は、信乃だけでなく、皐月にも念を押すように、強く言った。

「わかるまで……、わかりました」

 信乃は小さく頷いた。


 それから四日経ち、皐月と信乃は大宮に連れられて、鬼塚平八の実家へと来ていた。

「これは刑事さん、先日はどうも」

 海斗が出迎えると、大宮は頭を下げた。皐月と信乃もそれにならう。

「あの、海斗さん……祥子さんはいますでしょうか?」

「母さんかい? たぶん能舞台のほうにいるんじゃないかな? 無理もないよ、姉さんと父さんを立て続けに失ってしまったからね」

 海斗は暗い表情で云った。

「それで刑事さん、先日話したことですけど、たしかに来未姉さんは、借金はいつでも返していいと云ってました。しかもそんなに羽振りがいいわけでもないのに、すぐにお金を用意していたんです」

「そうですか。それとお願いしたものはありますか?」

「葬儀のこともありましたし、母さんが見ていない時に携帯で」

 海斗は携帯を取り出すと、画像フォルダから写真のデータを開き、それを大宮に見せた。

「これって、どうしてこんな場所から?」

「しかもこの日はおれが姉さんから借金した日だったんです。まさか母さんが代わりに」

「違う……、祥子さんは――」

 信乃の言葉に、皐月は不安そうな表情で彼女を一瞥した。

「能舞台に行きましょう。祥子さんから話を聞こう」


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